#27【ジョジョの奇妙な冒険】オーマイゴット!ジョセフの飛行機嫌いは妥当な判断なのか?【リスク認知】

 黄金の精神を脈々と引き継ぐジョースター一族。最強の吸血鬼DIOにすら打ち勝った彼らには、しかしどうしても乗り越えられないジンクスがあります。


 それは「飛行機に乗ると落ちる」というジンクス。特に2代目のジョセフ・ジョースターは酷く、作中で計4回墜落しています。飛行機が墜落する確率は諸説ありますが、一生に一度遭遇すれば凄まじい不幸と呼べるレベルですから、恐るべき確率といえます。まぁ、普通の人は一度遭遇したら死ぬんですけど。


 そんなこともあって、ジョセフは第4部の再登場時に飛行機ではなく船でやってきます。このときジョセフは79歳。アルツハイマー様の症状も出てきており、何かあれば流石に生還できないでしょうからこの判断は一見妥当に見えます。


 しかし、本当に妥当な采配だったのでしょうか? 運輸安全委員会によれば、2019年には日本だけでも船舶同士の衝突事故が220件発生しており、何らかの事故があった旅客船は55隻にも及びます。世界中の船を集計すればもっと多いでしょう。一方、航空機はヘリコプターまで含めてもたったの12件です。


 911のテロが発生したとき、多くのアメリカ人は飛行機での移動を避け自動車を使用しましたが、それによって事故が増加し、素直に飛行機を使っていれば死なずに済んだ人が相当数いたという推計もあります。


 ジョセフ個人に限っても、ニューヨークの不動産王である彼なら飛行機による移動は頻繁に行っていたはずで、その大半で事故は起きていないはずです。現に、第3部で来日したときに搭乗した飛行機では事故が起きていません。そして、移動に船を使用したことは、杜王町への来訪時に音石明の襲撃を許すきっかけにもなってしまいます。


 人は、客観的に見れば安全なはずのものを危険だと感じ、逆に危険なはずのものを安全だと感じてしまうことが多々あります。このような人間の心理はリスク心理学と呼ばれる分野で様々な角度から研究されています。


 では、なぜ人は安全なはずの飛行機を危険だと思うのでしょうか。

 このことを説明する現象の1つに、利用可能性ヒューリスティックがあります。


 ヒューリスティックとは、人が簡便に判断を下すために使用する思考傾向のようなものです。その中でも利用可能性ヒューリスティックは、「思い出しやすい情報を参照して判断を下す」バイアスとして知られています。


 例えば、飛行機の安全性を考えるとき、我々は911やテレビで見るような劇的な航空事故のことばかり思い出してしまいます。そのような事例は大量に報道されていますし、記憶にも残りやすいからです。一方、ほとんと全ての飛行機が安全に運航していることは、当たり前すぎるので一切記憶に残りません。


 こういう状況でヒューリスティックが働くと、飛行機事故の情報だけが参照されてしまうので、飛行機が危険であるというイメージが強く思い浮かぶことになります。逆に、自動車はいくら事故の確率が高くとも、普段からよく乗っている乗り物でありその大半で事故が起きていないので、安全に運転できた情報のほうが利用可能が高く安全と判断されやすくなってしまいます。


 ジョセフや承太郎たちも、同じ過ちを犯したのでしょう。なにせ彼らは4回も墜落していますから、そのときの記憶が鮮明に残っていてもやむをえません。結果、なんだかんだ言って飛行機が墜落しにくいという事実が忘れ去られ、危険だという印象だけが一人歩きしてしまいます。


 ちなみに、人間には「件数の多いハザードを少なく見積もり、件数の多いハザードを少なく見積もる」という難儀な性質もあります。飛行機を殊更怖がってしまうのもそうですが、本来件数の少ない少年犯罪や外国人犯罪が増加しているように語られるのも同じバイアスによるものです。


 このようなバイアスは人間の性質であるため、容易に克服することができません。方法があるとすれば、身も蓋もない話ですが「しっかり考える」ことが肝要です。ヒューリスティックは考えを怠けようとするときに使われる戦略ですから、怠けずに客観的な情報を集めようとすれば乗り越えられるかもしれません。


【要約】

 船よりも飛行機のほうが安全だが、そう思えないのは飛行機事故のイメージが鮮烈すぎるから。統計情報を集めてしっかり考えればヒューリスティックは乗り越えられるかも。


【元ネタ】

ジョジョの奇妙な冒険:荒木飛呂彦による漫画作品。ちなみに、ジョルノの乗った飛行機も落ちたことがある。


【参考文献】

ダン・ガードナー (2009). リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理 早川書房

中谷内一也 (2006). リスクのモノサシ―安全・安心生活はありうるか 日本放送出版協会

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