あとがき
吸血鬼ハンター・アレックス。
いかがだったでしょうか。
この話はもともと「門番と旅人」という短編を広げて広げて、伸ばして伸ばして、いつの間にか連作短編集になっていたというお話です。作者としてもここまで続けられたのは応援してくださった読者の皆様のおかげであり、7万字程度(それでも予定より結構伸びました)の、文庫本にすれば230ページ程度ではなかろーかと推測する一冊ですが、お楽しみ頂ければ何よりです。
以前は長期連載を書くこともそれほど苦ではありませんでしたが、就職してから四年、私はほとんど小説を書くことができなくなりました。迫り来る毎日に追われ、8万出して買ったPCはなぜかメモ帳を開くだけで青画面、読むのも書くのもできない日々でした(カクヨムなのに)
そんな中で、自分に無理なく書けるのは短編であり、それを連作にするにしても5万字程度が限界だろう、と自分の中の距離感と相談して始めたのがこのアレックスシリーズでした。それは同時に、読み手として社会の限界の中でページを開くことが可能であるなら、それは文庫300ページに満たない作品だろう、と『疲れている読み手』を想定して、まァそれは鏡に映っている自分自身でしかないわけですが、そういう仮想相手を据えて書く試みでもありました。そんなこと言っててこないだ『白い巨塔』を読破したりしていたんですけれども。忙しい忙しい。
吸血鬼という題材はよくフォーカスの当たるモノですが、この作品は自分で言うのもアレですが耽美的でもなく、夜の美しさを描いたものでもなく、ただ単に「産まれた瞬間から殺される運命にある存在」として描いていたような気がします。
つまり、産まれてきてはいけなかった命が、生きようとする物語です。
それは当然、死ななきゃならない存在は死ぬべき理由があるわけで、彼女が生きれば生きるほど、無辜な血が流されるわけですが、それを肯定するのはどういうヤツかと考えて、アレックスの道が浮き彫りになっていきました。
そしてそれを肯定するという、どう考えても間違っている理由だけが、ヴィクシミュという狩人の剣を降ろさせるたった一つの方法だったのだろうと思います。
ヴィクシミュはこの物語で常に「正しさ」を強いられてきた存在です。
吸血鬼側についた狩人を殺す狩人。
ハンター狩りという過酷な任務を背負わされ、自分の本心を殺さなければ任務達成はできない。
生きることそのものが自分の心を踏み潰すことでしか成立しない世界の中で、吸血鬼と人類の戦いの趨勢や、どちらが善か悪かなどは彼にとってはどっちだろうと同じ酒樽から汲んだ酒に過ぎないわけです。
グラスが違うとか置いたテーブルが東か西かなんて詭弁ではすり潰されたヴィクシミュの心は動きません。
彼の心が動くには、任務を放棄させるには、笑ってしまうほど身勝手で、素直でどうしようもないくだらなさ、一種の洒落ッ気が必要だったのだと思います。
「この子の未来が気になるから」なんて理由で自分は親友を殺す羽目になったのかと思ったら笑えてくるでしょうし、「もう、どーでもいいや」と自分の全存在を賭けてまで続けようとした「ただ生きること」を放棄するきっかけくらいにはなるでしょう。
言わば洒落や酔狂でしか、ヴィクシミュを同じ酩酊状態に引き込むことはできなかったわけです。
もともと「ヴィクティム=犠牲」の音から連想した名前ではありましたが、バスカーから剣を買ったあたりではこんな役目を負わされることになるとは作者も考えてはいませんでした。
ただ、アレックスに勝つには、アレックスを理解できる存在しか無理だろう、とは考えていたので、マディオではなくヴィクシミュにしかアレックスを討つ役割は与えられませんでした。
思えばうっすらとこういう運命に辿り着くことを俺も予想していたのかもしれませんね(テキトー)。
アレックスとグロリアは、大勢を犠牲にしてこの物語を駆け抜けました。それが正しかったのだと作者としては明言できず、また作者からその正しさを付与してもらえない二人は、この物語の後も悩み続けるのでしょう。数え切れない犠牲に対して、自分はどうすればいいのか。何を祈ればいいのか。
では、また次回作でお会いしましょう。
顎男でした。
吸血鬼ハンター・アレックス 顎男 @gakuo004
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