三杯目

 月村さんが唐突に告げた言葉により私達三人はいつの間にか、喫茶店ではなく見知らぬところに立っていた。


「ここはこですか、月村さん」

「彼の記憶に関係ある場所ですよ、おそらく」

「おそらくって何ですか……」

「ここは、僕達には知らない場所ですしね」


 周り良く見ると、私の地元と似たような雰囲気があり、日本語で書かれた看板も見つけられ。とりあえず、ここが日本であることは間違いなさそうだ。


「地元だ…… どうして……」


 小さな声で呟いた藤田さんは、懐かしい感じではなかった。何というか、忘れたかったものを思い出したような、そんな感じに近いと感じた。


「ここ、藤田さんの地元なのですか?」

「はい…… 高校生の時まで、ここにいました」


 そう答える藤田さんは、どこか悲しそうだった。


「まずは、あなたの家に行ってみましょうか? 何か分かるかもしれませんから」

「わかりました。私の家はこっちです」

「ありがとうございます」


 先を行く男性二人の後をついていき、町を歩いていく。都会とは程遠い、田んぼの多いのどかな田舎町の風景。それが、私の地元とよく似ていた。


「ここが、私の実家です」


 藤田さんの言葉を聞いて前を向くとそこには、一件のあばら屋に近い平屋の家があった。


「古くさい家ですよね…… 結構貧乏だったんですよ、私の家は」


 そう言う彼の顔は、どこか悲しそうだった。


「さてと、お邪魔しましょうか?」

「ちょっと待て、勝手に入って大丈夫なのか? 仮にも私達は部外者ですよ?」


 確かに私達は部外者で、ここが彼の実家であっても勝手に入ってしまえば、通報されて警察に連れていかれるだろう。


「大丈夫ですよ。過去の世界では、未来の人は干渉出来ないようになっているのです。ある一定条件を除いて」

「ある一定条件?」

「その条件って何ですか、月村さん」

「それは、教えられませんね。さあ、行きましょうか」


 私達二人が止める間もなく月村さんは、藤田さんのご実家へと向かっていく。玄関の扉を開けて入るのかと思いきや、そのまま通り抜けていき、それを見た私は背筋がゾッとした。


「どういうことだ……」

「いや、私にもわかりません……」


 どういった顔をしたら良いのかわからないまま、互いの顔を見る私と藤田さん。「どうしたんですか」と、なかなかついてこない私達を心配してなのか、月村さんが玄関のドアから首を覗かせた。それが残念なことに生首に見えてしまい、もしもこの場に幽霊とかが見える人がいて彼が幽霊だったら、即到してもおかしくないだろう。私だったら即到してると思う。怖いの苦手なので。


「行きますか……」

「そうですね」


 藤田さんに声をかけられ、二人で店主の後に続いて中へと入っていった。

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