ただ恋愛を描いただけではない。独特の質量や温度、手触りのようなもの。

大学の准教授と、教え子である女子大生。
20歳もの年齢差を抱えながらの恋。
落ち着いてしっかりと自分自身を見つめる主人公・若村桐子と、深い愛情で彼女を優しく包む志麻紀一郎。それを冷静に、ちょっと悪戯っぽい目で見守る桐子の叔父・和三。懐かしい故郷で暮らす桐子の母、早くに亡くなった父、母の新しい恋人。
彼らの繋がりが、深く細やかに描かれていきます。

愛し合うシーンも、主人公がものを思うシーンも。そこには常に穏やかな静けさが漂います。
そして、彼女がその時々の思いに浸る場面に挟まれる情景描写は大変繊細で秀逸。少ない言葉なのに、彼女のいるその場所の空気や温度を肌で感じさせるような……作者様の言葉を選ぶ感覚、感じたものを表現する感覚の鋭さが、読み手にもジワリと深く染み込みます。

ただ年齢の離れた男女の恋を描いただけではない、この作品独特のなんとも魅力的な質量や温度、手触りのようなもの。後を引くようにその味わいに引き込まれる、落ち着いた大人の物語です。

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