よくテレビなどで教師と女子高生の恋を描いたものはよくありますが、
私はあまりそういうものは好きではありません。
教え子の方は恋に恋するような薄っぺらい恋愛感情がありありと見えて、
教師の方はダメだと分かっていながら、恋仲になってしまう意志の弱さがどうも共感できないのです。
試練を乗り越えて~だと、ストーリーがかなり重くなりますし、
しかし、これが大学准教授と女子大生の年の差の恋愛なら話が変わってきます。
志麻教授の方は、時折年上らしからぬ子どもっぽい振る舞いをすることがありますが、基本的には大人の余裕をみせながら、大事な時はしっかりと決断します。
女子大生の桐子の方は、家庭環境のこともあり、周りよりも少し大人びていて、
志麻教授にいつも振り回されながらも、しっかりと精神的な支えになり、
我慢しなければいけない時はちゃんと我慢するなど、
年の差の恋愛でありながら、しっかりと大人の恋愛が描かれているところに好感が持てました。
そして恋の育み方も、文学を勉強する者同士らしい育み方をしていて、女性受けが良さそうだなと思ったと同時に、平安時代の貴族とか昔の人は、こういう恋愛をしていたのかなあと、ふとそんなことを想像してしまいました。
また、大人の隠れた恋愛でありながら、詰めが甘いところがあって危なっかしくてハラハラする場面もありますが、
これも「独身准教授」と「女子大生」という、大人のような大人じゃないような、微妙な年代の恋愛ゆえによるものだと思いました。
とにかく従来の先生と教え子の恋愛ものとはひと味ちがうので、
このタイプの物語が好きな方はぜひ一読してみてください。
大学の准教授と、教え子である女子大生。
20歳もの年齢差を抱えながらの恋。
落ち着いてしっかりと自分自身を見つめる主人公・若村桐子と、深い愛情で彼女を優しく包む志麻紀一郎。それを冷静に、ちょっと悪戯っぽい目で見守る桐子の叔父・和三。懐かしい故郷で暮らす桐子の母、早くに亡くなった父、母の新しい恋人。
彼らの繋がりが、深く細やかに描かれていきます。
愛し合うシーンも、主人公がものを思うシーンも。そこには常に穏やかな静けさが漂います。
そして、彼女がその時々の思いに浸る場面に挟まれる情景描写は大変繊細で秀逸。少ない言葉なのに、彼女のいるその場所の空気や温度を肌で感じさせるような……作者様の言葉を選ぶ感覚、感じたものを表現する感覚の鋭さが、読み手にもジワリと深く染み込みます。
ただ年齢の離れた男女の恋を描いただけではない、この作品独特のなんとも魅力的な質量や温度、手触りのようなもの。後を引くようにその味わいに引き込まれる、落ち着いた大人の物語です。