動き出したプラモの背に乗って、オープンワールドを駆け抜ける

「趣味は何ですか?」とか「休みの日には何してる?」とか。
たまにできた休日となれば、喫茶店へ行き、文庫本片手に珈琲と煙草で過ごす。
もしくは劇場に出掛け、チェックしている監督の新作を観たり。
本作の主人公のようにプラモデルを作ったり。

「趣味とは何ですか?」と尋ねられたら、これは受け売りだが「自分に戻る時間です」ってのが今のところ一番しっくりくる。
ビズやジョブから離れたところで自分が何を、どう感じるか。
いや、必ずしも内省的である必要はない。
無心になって過ごす時間もある。夢中になって我を忘れることだってある。
どういう状態かは人それぞれだろう。
しかし「自分に戻る」という回答は、「趣味とは何か」という問いかけに、ある程度共感を得られる表現じゃないだろうか。

さて、「モデリングサーガ」は主人公が見知らぬ世界で目が覚めるところから幕を開ける。
彼(ロプト)は目覚める直前の出来事どころか、自分が何者かすら思い出せない。
石畳に転がるプラモデルを目にしたことで、朧げながらも自分で何者であったのかを思い出す。
しかし蘇った記憶は断片的で、現状を説明するだけの情報は得られない。
ただプラモデルをそれと認識した瞬間から、「今すぐ作りたい」という欲求が湧き上がる。
思いのままに組み上げたそれは巨大な体躯の狼として生命を宿し、彼に懐いた。
プラモデル好きの主人公ロプトと巨狼「ナルヴィ」。
神話世界を彷彿とさせる地で、ロプトは道中で出会う人々と交流を深め、時に降りかかる厄災を相棒ナルヴィと払いのけながら自分の夢に向かって進み始める。

主人公ロプトはひねたところがなく、素直で正直な青年として描かれている。
また、道中で出会う「巨人族の長」とのやり取りで見せる状況判断の的確さや物事への判断の速さなど、大人な側面を見せたかと思えばプラモデルに夢中になる少年性とのギャップが面白い。
そして相棒のナルヴィが実にいいのだ。しぐさやリアクションから温かみが伝わってくる。しかもこの巨狼、自分の作ったプラモデルが動き出したのだから堪らない。

そう、何よりキーとなるのが、このプラモデルだ。
思い起こせば作ってから「動かす」ことに没入し楽しんだもんだ。
頭の中と手にしたプラモデルが現実の風景と溶け合って、飛んで跳ねて駆ける。
言うなれば妄想のカタパルト。
自分で作ることで情でも念でもこもるのか、イマジナルな世界の触媒のようだった。
手触りのある想像的なモノ。
現に組んで塗装して遊ぶボードゲームもあるわけで、触媒としてのプラモデルという感覚は、あながち個人的な感想とばかり言えないんじゃないだろうか。
劇中ではモデリングのテクニックも盛り込まれ、何よりロプトのワクワクが伝染し久々にプラモデルを手にしたくなること請け合いだ。

ニッチな趣味で異世界モノ。
ユニークでワクワク。
動き出したプラモの背に乗って、オープンワールドを駆け抜ける。
プレゼント感満載の物語。