彼らにまた会いたくなる。そんな気持ちにさせてくれる奴らがここにはいる。

面白い。
何度言えば伝わるだろうか。
本当にこの「二つの世界の螺旋カノン」は面白い。

通奏低音として流れる慟哭にSFとオカルトと青春が乗っかった普遍性を備えた物語。

理不尽さに対抗する覚悟とそれを支える優しい奴ら。

冒頭から暫くは主人公「磯野」の所属する文科系サークルの緩やかでどこにでもある日常が描かれる。
緩やかな日々が続くかと思われたが、「磯野」はあるキーアイテムをきっかけに目眩に襲われ気が付くと奇妙な世界にさ迷い込んでいた(「1-6異常なのはこの世界の方だ)。

その世界は「色彩が薄く、無人・無音の空間」。

「磯野」の身に何が起きたのか。これから始まる事件の異様さの端緒に触れたなら(「1ー10そっちこそ誰なんだ?」)、そこからはまさに怒涛だ。回を追うごとに謎が謎を呼び、話数を重ねるごとに面白味も増して行く。
しかし、物語は事件の謎に終始しない。
決して謎で引っ張るだけの展開ではなく、複雑になりそうな話に読者が置いてけぼりを喰わないのは、やはり登場人物の溢れんばかりの魅力が物語を牽引しているからなのだろう。

彼らにまた会いたくなる。そんな気持ちにさせてくれる奴らがここにはいる。
彼らの趣味や好き嫌い、信条なんかが習慣として彼らの行動にしっかり根ざしており、生活にリアリティがある。
登場人物の言葉や行動が「心の導線を大事に」描かれ「一人の人間がちゃんといる」のだ。
劇中で語られる演出論同様、作者が登場人物との間にじっくり信頼関係を築き上げて来た結果なんだと思う。

所々で釣ってくるマニアックなネタ!
琴線をくすぐる台詞の応酬!
さらりと触れてくる理論もどれもディープ!
スピーディーな展開に可読性の高さ!
感情を揺さぶるエンターテインメント!
(!5つでワンアップ)

本当にこの「二つの世界の螺旋カノン」は面白い!

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