6 新たな仲間を得て、いざ広大な世界へ(拒否権ナシ)

 前回までの(略)

 限界オタク・瀬戸せと詩宇しう先輩にも僕の秘密がバレた。

 なんというかバレるの早すぎね。


 そこからはトントン拍子で話が進んだ。


「キャラの外観は任せて……バリバリ」


 バリバリ、って自分で言っていくのか……


 イベント事では毎回チラシなどのデザインを作っていたのが瀬戸先輩。

 なんでこの人美術部にいないの? と率直すぎる感想を持ってしまうほど絵がうまいのだ。

 しかもそれだけの技術を持っていてそっちの道に進むつもりは一切ないそうで……趣味はあくまで趣味のままでいたいんだと。

 僕にはもったいない……としか思えないのだけど、それはともかく。


「ハァハァ……ハァハァ……待っててねTenYUテンユウちゃん、最高のアドラブル化をしてあげるから……」


 アドラブル化とは、主に男性配信者が新しい美少女アバターの身体を持ってこの世に『受肉』することを指す。


 この人はこのままにして大丈夫なのか……? 

 昨日からいちだんと重症化してるような気がするのだけど。


 瀬戸先輩の圧倒的な筆力もとい妄想力により、僕が適当にでっち上げた『TenYU』というキャラクターが形となっていく。

 

 これがまた企業案件と遜色ないくらいとんでもなくかわいいのが悩ましい。

 僕自身が、えっこの子を演じなきゃならないの……? と尻込みしてしまいそうなほどだ。


 そんなことまで望んではいなかったのだけど、外堀が急ピッチで埋められていく。


天田あまだ、今日はどんなセリフを録ろうか?」


 今では当事者である僕よりも里藤りとう先輩や瀬戸先輩のほうがやる気だ。

 そこで僕は、意を決して聞いてみた。



「なんで……なんで僕みたいなキモオタの美少女化願望なんかに……そこまでするんです?」



 僕にはわからなかったのだ。

 言ってしまえば初めから女性である二人には、美少女になりたい、という僕の悩みなんかとは無縁なように思えたから。


 面白そうだから、とか、僕のことをからかっているから、だとか。それだけではここまでの情熱は注がないと思う。

 僕とは違った理由が、あるのだろうか……?


 里藤先輩から返ってきたのは、きわめてあっけらかんとした回答だった。



「え? 美少女が嫌いな女の子なんていないでしょ?」



 首肯しゅこうする瀬戸先輩。

 僕はキョトンとしてしまった。


「そ、それだけ……?」 

「そうだよ。むしろ女がなんで美少女に憧れないと思うのか」

「そ、そういうもの……?」


「そういうものだよ。自分が美少女じゃない、って悩みは天田みたいな男の子だけのものじゃない。あたしたち女にだって男性が思う理想の『kawaii』像と限りなくイコールに近い姿を好きになって、それに少しでも近づきたい、って思う人もいる」


 なんだか圧倒されてしまった。り、里藤先輩、語るなあ……

 反芻はんすうするように、続けてつぶやく。


「……そうだね。美少女の声を手に入れた天田に、ちょっと自分の理想像を見ているところはあるかもね」


「……先輩」


 放課後の秘密は、もはや僕だけのものではなくなっていたらしい。

 しんみりした気持ちになった。


「それに、何よりかわいい後輩が恥じらいながら女の子してるなんてシチュそうそうないからね!」


 ……やっぱり、そこですか。


「というわけで! 天田にはバーチャルNewWaverになってもらう! とりあえず瀬戸先輩のキャラメイクと今日の収録の編集が終わったら、チャンネル開設して投稿するから!」


「ええっ、もう!?」


 トントンにも程があるでしょ!

 でも……拒否権はなさそうだ。

 後が怖いのでおとなしく従うことにしよう。


 それに、考えてみれば本来は僕だけで何から何までやらないといけないところを、2人も協力者がいるのだ。

 個人のVWaverともなると動画もそうだしキャラクターデザインから宣伝広報から、本当に大変そうなのが素人目にもわかる。

 実はとてもかけがえのないものを得ているのかもしれない。


 ある意味ちょうどいいチャンスが巡っているのだと、もはやそう思うよりは仕方なかった。

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