5 限界オタク少女の過呼吸
放送部員の3年・
アクの強い放送部のメンツにあって、無口で自己主張も控えめで、言葉を選ばずに言えば目立たないタイプだ。
騒がしい
入部からだいぶ時間が経ったにもかかわらず、瀬戸先輩と話したことはほとんどないし、どんな人かもよくわかっていない。
そんなわけだから、この人の行動とかは正直計算に入れていなかった。
とはいえ……ほんとマズいタイミングで入ってこられてしまった。
「せ、先輩……こ、これはですね、その、違うんですよ」
「――!」
あからさまに一歩下がって距離を取られてしまった。
反応を見る限り明らかに誤解されている。
でも言い繕おうにも、すんなりと言葉が出てこない。
この状況を短い言葉で説明することはあまりに難しくてもどかしい……!
「あー瀬戸先輩。本当ならもっと後に教えて驚かせたかったんだけどな……あたしたちが何をやっていたか、知りたい?」
里藤先輩……
脳みそフル回転で釈明をなんとかひねり出そうとした僕のことなんかまるでお構いなしである。
「あ、ちょ、里藤先輩……!? 何バラそうとしてるんですか!?」
「変に誤魔化すより正直に話したほうが印象がいいよ? 別にやましいことしてないんだからさ」
……いや、もう帰らないといけない時間はとっくに過ぎてるからそこは完全にやましいんだけどね。
それはともかくとして。
「で、でも……」
「それとも、あたしとやましいこと、したかった?」
「なっ――!?」
「あっははは、天田、完熟トマトみたい。今ならカ◯メともコラボれるんじゃない?」
頬のあたりの体温が異常に上がるのがわかった。
こ、この人は……また僕をからかって……!
「それに天田、ヘンな心配はいらないよ。たぶんだけど先輩が驚いたのはそこじゃないから。そうでしょう? 先輩」
遠慮がちに頷きつつも、僕たちのスペースへと割って入りヘッドフォンを受け取った瀬戸先輩。
「さっきの、再生してあげて」
……はぁ。
もはや一人バレたのが二人になったところで変わらないか。
機器の再生ボタンを押す。
変換された僕であって僕でない美少女のような声を、二人の女子の前で聴かれている状況。
恥ずかしさには慣れないけれど、反面。
僕のなかの深いところにもようやくわずかに光が射し込んだような、そんな感覚もあった。
……という僕のパーソナルな部分は置いといて。
おや、瀬戸先輩のようすが……
「ハァァァァァ──────ッッ!! ハァア、ハァア─────ァア──!!」
いや冗談じゃなくてほんとにヤバそうなんですけどォ!?
なんか息苦しそうとかいう次元をはるかに超越してるんですけどォォ!!?
「フゥーッ……アア──────ッ!!」
「せ、せんぱい……? 大丈夫ですか?」
あまりにもおかしい呼吸の乱れ方。
しかしそれでも頑としてヘッドホンは離そうとしない。
さすがに放置は危なそうなので失礼してヘッドホンを外そうとすると、普段無口でおとなしそうな瀬戸先輩からは考えられない力強さで手を払いのけられた。
……割とガチで手がヒリヒリするんですけど。
「大丈夫よぉーん天田これは通常運転。瀬戸先輩は大好物に触れるとこうなるから」
いやいやいや……通常って……この反応は尋常じゃないでしょ……
「ハァ、ハァ、ハァ……」
やっとヘッドフォンを外した瀬戸先輩。呼吸の乱れを整えようとしているというところに、里藤先輩が構わず、
「どうです先輩? すごいでしょ? 実はこれ……ボイチェンしたコイツの声なんですよ」
余計なことを吹き込んでくれる……!
そのまま首があらぬ方向へ曲がってしまうんじゃないかってほどの勢いでこちらを向いて、驚きの眼差しを向ける瀬戸先輩。
「……あ、あ……天田くん!」
「は、はい!?」
「……いける!」
「……は?」
「も、もっと……もっと聴かせて! いえ、聴かせてくださはひッ!」
目が……目が血走ってるんですけどォ!?
それに、近い、近い……!
あなたも大概パーソナルスペース気にしない人ですね!?
「ね? 天田、わかったでしょ? 瀬戸先輩はとにかくかわいいものに触れると我を失っちゃうんだ。先輩、天田かわいいですよね?」
「かわいいよほぉ! 天田きゅんちゃん! 天田いける!」
某配信者兼漫画家みたいに言うなよ……
まさか瀬戸先輩がこんなに残念な人だったとは……
おとなしくて小さくて……かわいい人だなあと、放送部唯一の良心認定してたのに!
……おめでとう、瀬戸詩宇は限界オタクに進化した。
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