第2話 行先変えてわっちゃわちゃ

 玄関を出ようとして、靴をはこうとしたら、靴下がいつの間にかずり落ちていて裸足だった。向き直って靴下をつまみ上げると勢いがついていたので顔に当たってしまった。

「くっせえええ」

 はき古しの靴下の匂いは強烈だった。いやな記憶を振り払うかのように靴下を丸めてゴミ箱へシュートした。ストライク!男は拳を上げてガッツポーズをしたら、窓が開いていたので向かいのおばさんに見られた。仕方がないのでゴリラダンスのふりをしてごまかした。ウホウホ。

 別にごまかす必要はなかったのだ。恥ずかしいのだ。タンスに向かって代わりの靴下を探そうとして引き出しを開けたらすっぽ抜けて足元に落ちた。

「痛っえええええええ」

 男は足を抱えてぴょんぴょん飛び跳ねたら、今度は隣の婆さんに見られたので、ウサギのふりをしてごまかした。ラビラビ。

 婆さんは変な顔をして部屋に入ってしまった。男は機嫌を直して靴下を探していて、水玉模様の派手な靴下を発見した。しかも、これしかないことに気づき、赤面した。

 水玉模様のハデハデな靴下をはいてから改めて玄関に行き靴を履いて外に出た。外はあいにくの雨だった。男は傘を探した。傘は真っ赤なサクランボ柄のやつしかなかった。

「何で女物の傘なんか」

 記憶を探ると彼女の部屋から間違って持ってきた奴だったと判明した。自分の傘は彼女の部屋にある。これはあまりにも恥ずかしいので、どうせ遅刻なので開き直って彼女のアパートに行って交換することにした。


 男は会社と反対方向に走る電車に乗るために駅で切符を買おうとして、小銭がないことに気づいた。財布には万札が10枚。しかもピン札。手が切れそうなその紙幣は男の指先を切り裂いた。

「ぐえええええ」

 血をにじませながらも、売店に行き万札を崩そうとした。買ったものは当地の絵葉書き。何でこんなものを買ってしまったのかわからない。いいや彼女へのプレゼントだ。


 電車に乗る前にドアに一回挟まれて、顔がつぶれたタコみたいになった。それでもかまわず電車に乗り込んだら女性専用車両だった。

「あわわわ。すいません。間違えました」

 男は体を小さくして隣の車両に移動しようとして、連結器の真ん中に載った時、列車が大きく揺れた。

 ひっくり返って足元をよく見ると革靴ではなくサンダルを履いていて、さっきお靴下が丸見えだった。男は注目の的になった。


「なんだなんだ見世物じゃないぞ」

 男は怒りのあまり顔を真っ赤にして隣の車両へと移って行った。

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そこつ大全集ー人生は喜劇だー 楽人べりー @amakobunshow328

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