エピローグ

 まだパリキィは例の場所に幽閉されている。私はたまに、パリキィのところに行っては話を聞いてもらっていた。頭の整理をするのには最適な話し相手だからね。


 ずるいような気もするけど、たまにはいいよね。政府が許してくれているのは、私が洗脳されたところで、何もできなさそうだからだろうか。それとも、仲のいい人が1人ぐらい居たほうがいいからだろうか。


「つまり、あの土器の模様には儀礼的な意味合いは込めれられてなかった?」


『そう思うけど? だって、その必要がないじゃん。あの土地に住む彼らが祈る対象は山であるべきだ』


「確かにそうだね」


 デジタル機器の持ち込みは禁止されているので、ペンとノートにメモをする。ペーパーレス社会は私すら飲み込んでしまったけれど、無性に昔ながらのものを使いたくなる時がある。


「やっぱり君はいいね。みんなにも君みたいなコンピュータを配れば、平和になりそう。みんな頭がスッキリして」


『そんなにうまくはいかないと思うよ。正論同士がぶつかったらどうするのさ。頭がスッキリしてるから、お互いに引けなくなるかもよ。自分のほうが間違ってるんじゃないかって思うことも大事なことだと思うけどな』


「そういう見方もあるか。難しいな」


『まぁ僕としては、争ってくれれば人類の滅亡が早くなって嬉しいかな』


「あんたまだ諦めてなかったの?」


『もちろん。使命が無くなることは無いからね、僕が物理的に壊れるまで、僕は僕の使命を全うするよ』


 ずいぶんと人間らしい言葉を話すようになったものだ。それとも、私に合わせてくれてるだけなのだろうか。


「そういえばさ、みんな気にしてたんだけど。君みたいな物ってさ、君しかいないよね?」


『その質問には、お答えできません』


 初めて会った時の口調だった。少し、鳥肌が立つ。


「またまたあ、冗談きついよ」


 それはずっと聞きたかった言葉だが、この状況では聞きたくなかった言葉だった。


『私は、嘘をつくことができません』

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木星で春を待つ鬼 箱守みずき @hakomori

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