第34話 新しい世界
あれからまた2年が経った。
まだ世界はうまく選択をし続けているようだ。技術革新は止まることなく進んでいる。これならあと十数年で、パリキィ級のコンピューターが作れるかもしれないと
そうなれば、パリキィは解体されてしまうのかな。あるいは、解体するかどうかすら、私たちが作ったコンピューターに選択させるのかもしれない。
パリキィがもたらした技術で作ったコンピューター。そんなのに選択を任して大丈夫かな。そこまで計算して、パリキィは技術革新の
そういえば、結局パリキィに「あなたは正直者ですか」って聞けなかった。聞いても意味ないんだけどね。『はい』って言われたところで、証明のしようがない。むしろ『いいえ』って言われると、困るのかな。
相変わらずの夏の暑さ、年々厳しくなっているように感じるのは、歳のせいだろうか。いくら技術革新が進んでも、野外での発掘は辛いままだ。発掘ロボが開発されるまで、このままなのかも。
「先生、ロケットなんて興味あるんですねー。意外っすね」
新しく研究室に配属された学生は、私がわざわざ発掘現場にまでタブレット端末を持ってきて、ロケット打ち上げの中継を見てるのを不思議そうに見ている。
「友達が関わっててね、ほら、前回失敗しちゃったでしょ?」
「あーあれですか、結局原因よくわからなかったやつですよね」
「うん、だから今度こそ、成功してほしくってね」
結局、打ち上げ失敗の原因はわからなった、ということにしている。原因を決めたほうが、次の打ち上げを早く行えたのだけれども、原因を決めてしまうと誰かのせいになってしまう。
そんなことはしたくないと
カウントダウンが始まる。今度乗っているのは、本物の木星探査機だ。木星圏の詳細なデータと、エウロパの海を調べることが主目的になっている。さらに、エウロパの海水を持ち帰ることも計画の内に入っている。
ロケットは轟音とともに、またたく間に空へと消えていった。今度は大丈夫そうだ。
「おー、ちゃんと飛びましたね。宇宙かー、一度は行ってみたいな」
今はまさに、空前の宇宙ブーム。
まだ有人移住の前段階で、火星に物資を送り始めた所らしい。同時に、選ばれた人たちが移住のための訓練を始めたそうだ。ニュースで選ばれた人がインタビューを受けていた。
「新しい世界で、自分の可能性を試しみたい」、そう言う若者を、評論家たちは「無謀だ」だの、「勇気がある」だの無責任に論じていた。
そんなの本人にしかわからないのにね。もしかしたら、振られた勢いだったかもしれないし、もっと過酷な運命を背負っているのかもしれない。彼の選択は彼の選択だ。多分理由を聞いたところで、理解なんてできないんだろう。そういうものだ。
「今のところ大丈夫みたいね。じゃ、続きやろうか。今日のうちになんとか終わらせるぞ!」
私は研究者でもあるし、教育者でもある。というか、大学は教育機関であるわけなので、教育が主とした仕事、のはずだ。これまでも、学生に対しては真摯に対応してきたつもりだ。
でも、私にはもっと、伝えなければいけないことができた。あの2年間で学んだことを、私も教えなければならないと思う。うまく伝えられるかはわからないけど。
選択のこと、世界のこと、天気のこと。哲学的だけど、今の世界を生き抜くためには必要なことだと思う。うまく伝えるためには、しっかり準備しないといけない。
「明日、式ですよね、日焼けしちゃいますよ」
「そんなこと気にする人たちじゃないから大丈夫。貴方こそ、進路は決まったの?」
明日はみんなと集まることになっていた。
今度の主役は、私。
こっ恥ずかしい。純ちゃんは約束を守ってくれた。本当に素敵な人を紹介してくれたのだ。気の合う、知的で、優しい人だった。そして私の仕事に理解があった。
ここまでの人を紹介してもらえるなんて思っていなかった。あれ、まさかパリキィに選定を依頼したんじゃなかろうか。まさかね。まぁ、それでもいいんだけど。
確かに、超知性にパートナーを選んでもらえるのはいいかもしれない。この選択は難しいからね。そんなことにも使えるぐらいに、超知性が世界に溢れたら、世界は平和になるんだろうか。
「かおるんおめでとう」
純ちゃんも、みんなも、まだまだ元気だ。それぞれが、それぞれの選択について、悩んだり、後悔したり、満足したりして、また次の選択をする。
今はそれが当たり前だ。だけどそれが当たり前の時代なんてなかなかないのだ。昔の人は、今より遥かに少ない選択肢の中から選んでいた。それがいいのか悪いのかは、その人しだいなんだけど。
「純ちゃんのおかげだよ」
縄文人が歯を磨いていたかどうかについては、議論の分かれるところである。今ではどうだろう。百種類以上の中から歯ブラシを選び、さらに歯磨き粉も選ばなくてはいけないのだ。
組み合わせは何種類になるんだろうか。みんなの趣向がいろいろな方向に向きすぎていて、自分の方向がわからなくなる。ここまで来ると、コンピュータに選んでもらいたくなるなあ。
「かおるん。意外なドレスを選びましたな。似合ってるよ」
もしかしたら本当に、コンピューターがすべてを選んでくれるようになるんだろうか、今は物がありすぎて、本当に選びたいものになかなか巡り会えないでいる。
選んでもらえたら、楽だろう。でもすべてをコンピューターに選んでもらうのも、物足りない気がする。何事もほどほどがいいはずだ。
「ありがと、後悔はしたくなかったからね」
また、人から選択肢が無くなる時代が来るのかもしれない。なんでも超知性が選んでくれる時代。
そんな時代に、選択することを忘れてしまった人間に、重要な選択を任せることができるだろうか。
例えば本物の宇宙人が地球にやってきたときに、対応を全て超知性に任せてしまうような事になってしまうってのはどうかと思うよ。
そんな事になってしまわないように、私は、私たちは教えていかないといけないのかもね。
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