与える愛と真に望む愛の狭間——闇の契約の奥に潜む、雁字搦めの人間ドラマ
- ★★★ Excellent!!!
14歳の少女にプロポーズするという、衝撃的なシーンで幕を開ける本作。
婚約者・ざくろを母親の虐待から救う決意をした主人公・剣一は、そのことが原因で冥王ハデスに取り憑かれてしまいます。
ハデスの目的は、ネガティブな感情に起因する人間の決意を挫くこと。
どうしてもざくろを救いたい剣一の、心身を掛けた戦いの日々が始まります。
見どころは、ハデスから異能を付与された者同士の「決意」を掛けたバトルシーンです。
迫力あるアクション描写に重ねて叩き付けられる、怒涛の如き心情描写。
ここに、人間の心理の内部まで深く抉り込む、作者さまの持ち味が素晴らしく発揮されています。
なぜ剣一はハデスに取り憑かれたのか。
それがこの物語のテーマを紐解くための重要なポイントとなっています。
キーパーソンは、剣一のクラスメイトであり、友人以上恋人未満の関係にあった茜。
茜の存在が、剣一の中に歪な決意を生じさせてしまった大きな要因の一つとなっているのです。
「誰かを救いたい」という決意は、一見すると美しく崇高なものに思えます。
だけどその実、自分自身を雁字搦めに縛るものでもあるかもしれません。
重たい覚悟を背負った少年は、決して綺麗事ばかりでは済まない苛酷な運命に翻弄されます。
和やかな日常の中に同居する、今にも心を握り潰されそうな焦燥と揺らぎ。読むほどに嵌まり込んでいくこと間違いなし!
一風変わった人間ドラマをお求めの方におすすめしたい作品です。