主人公は喫茶店で出会ったバリスタの青年・悠介。彼は単なるバリスタではなく、ある“呪い”のような特異な特徴――見る人によって顔が違って見える という不思議な能力を持っています。この設定が、物語全体に自然な優しさとほんのり切なさを生み出しています。
単に不思議な設定にあるのではなく、その設定を通して描かれる登場人物たちの内面や過去の重み、そして“誰かと向き合うこと”の意味にあります。悠介という存在を通じて、人々は自分自身の過去や知られざる感情と向き合い、変わっていきます。その過程はまるで 一杯の珈琲のように、苦味と甘みが絶妙に混ざり合いながら心に残るものです。
文章は穏やかで柔らかく、喫茶店の空気や香り、時間の流れまで感じさせるような描写が魅力的です。読んでいると、まるで静かな午後にゆったりと珈琲を飲みながら物語を追っているような気分になります。物語全体からは、日常の中に潜む小さな“奇跡”や“気づき”への優しい眼差しが感じられ、読後にはじんわりと余韻が残ります。
見る人の記憶の中の人を映してしまう『呪いのバリスタ』と呼ばれる男性と、彼のありのままの姿を見る女性、二人の出会いと彼等が出会う人々のドラマ。
別人に見えてしまうことから起こる苦難に向き合って来たバリスタの悠介。彼の優しさに徐々に惹かれる愛佳。
オムニバスのように起こる出来事を経るごとに、二人の心が近付いて行く様子が丁寧に描かれています。
しっとりした人間ドラマが『他人に見えてしまう』というファンタジックな設定を妙に現実的に見せており、それゆえに巻き起こる出来事に疑問を持たせることなく引き込みます。
彼を見た人物は自分の過去と向き合い、そして何かを思い出してゆく。
否応なく巻き込まれる悠介を支えようとする愛佳、二人の想い合う様子も切なさを感じさせる物語です。
とびきり香り高い一杯の珈琲とともに楽しみたい、そう感じさせることを保証いたします!
ゆったりとした優しい文体で綴られる物語は
どこか安心感を与えてくれます。
香ばしい匂いを立てるコーヒーメーカー。
優しく包み込むような音楽。
まるで自分がそのカフェに来ているかのような感覚を味わえるのは、丁寧に世界観を構築されているからでしょう。
店内にいるであろう、お客様の声すら聞こえてくるようでした。
そんな落ち着く雰囲気の中に混ざるのは、とあるバリスタに関する謎。
『見る人によって顔が違って見える』
『しかも思い出の人にそっくり』
といった『呪い』に近い小さな違和感が物語のスパイスとなり、ページを捲る手に拍車をかける。
“誰かの代わりにしかなれない"と悩むバリスタの青年と"ピアニストになりたい"と願う少女の恋模様は、きっとコーヒーのように芳醇な香りがするはず。
淡く苦い想いが匂い立つ、どこか不思議な物語がどのような結末を迎えるのか。
続きを読むのがとても楽しみです。
静かに湯気の立つカップの向こう側で
心がそっとほどけていく──
本作は
コーヒーの香りに紛れてしまいそうなほど
繊細な想いを
丁寧にすくい上げて描く物語。
恋の始まりはいつも曖昧で
触れれば崩れそうに脆い⋯⋯
けれど本作の恋は
ほろ苦さと優しさが
同じ温度で胸に残る。
バリスタという職を通して
積み重ねられていく努力
競い合う者たちのまっすぐな矜持
そして〝誰かに似てしまう〟という
不思議な現象が
人物たちの心情に静かな揺らぎをもたらす。
華やかなステージの熱気も
カフェの午後の静けさも
主人公のまなざしを通すことで
一杯のコーヒーのように深い余韻となり
読み手にそっと染み込んでくる。
まだ物語は続く。
だからこそ、この温度のまま
次の一滴が落ちるのを待ちたくなる──
そんな〝香りの残る〟作品です。
カクヨムに数多くいるであろう読書家の皆様には周知の事実と思われますが、読書と喫茶店の相性は非常に良いものです。
本作は特に、お気に入りのカフェで、柔らかい音楽と、素晴らしい香りを楽しみながら、ゆったり読みたい作品です。
『その人の気になる誰かに似て見える』という不思議な力を持つバリスタの青年と、ピアニストを目指しながら、夢を追い続けることに悩む女子大学生がおりなす人間ドラマ。
読み進めるうちに語り手の愛佳さんとシンクロして、はっきりとは描かれないけれど、バリスタ青年悠介さんの、儚い痛みがじわじわと伝わってきます。
彼と彼女の関係がどうなってゆくのか、これからの展開が楽しみです!!
人にとって、顔とは一番表層部に現れるアイデンティティのようなものです。
個を保証し、個を特定し、己と相手を分かつ最もわかりやすい部分なわけですね。
だからこそ、自分であるはずの顔を別の誰かの様に見られたら、少なからず心にもやっとしたものが生まれます。
果たして私は誰なのだ、と。
ずっと「違う誰かの顔」に見間違われる、不思議な青年バリスタ。
まるでドッペルゲンガーのような彼の顔ですが、主人公には特に誰かに似ているという風にも見えません。
バリスタの彼はずっと「別の誰か」として見られていただけに、主人公の事がちょっと気になるようです。
おや、これは彼にとっての特別な存在になる気配ですね?
「顔」という自己に直結する部分に触れつつ紡がれる物語、これは哲学的で深みのあるお話になりそうな予感がします。
読み始めるなら今です。
(4話時点でのレビューです)
まだ始まったばかりですが、少しでもこの話をどなたかへ届けたくてレビューを書くことにしました。
「そのバリスタが淹れる珈琲は、ほろ苦い過去の味がする」
本当にタイトルの通りでした。
「朝に淹れる珈琲のお供に」と読み始めた物語は、思いの他ほろ苦く胸を締め付ける物語です。
カップを握ったときの温もりと珈琲の雑味が、言葉の節々に溶け込んでいるような素敵な物語。
人間関係とは必ずしも思い通りにいくことばかりではありません。それでもその違いがあるからこそ、その関係はほんのり温かいのかなと、そう感じさせるお話です。
2025年本屋大賞を受賞作『カフカ』、2020年ノミネート作『ライオンのおやつ』。このあたりが好きな方は絶対に刺さる物語だと思います。
この先の物語りでお互いの苦悩をどう埋め合っていくのか……期待の一作です。