人にとって、顔とは一番表層部に現れるアイデンティティのようなものです。
個を保証し、個を特定し、己と相手を分かつ最もわかりやすい部分なわけですね。
だからこそ、自分であるはずの顔を別の誰かの様に見られたら、少なからず心にもやっとしたものが生まれます。
果たして私は誰なのだ、と。
ずっと「違う誰かの顔」に見間違われる、不思議な青年バリスタ。
まるでドッペルゲンガーのような彼の顔ですが、主人公には特に誰かに似ているという風にも見えません。
バリスタの彼はずっと「別の誰か」として見られていただけに、主人公の事がちょっと気になるようです。
おや、これは彼にとっての特別な存在になる気配ですね?
「顔」という自己に直結する部分に触れつつ紡がれる物語、これは哲学的で深みのあるお話になりそうな予感がします。
読み始めるなら今です。
(4話時点でのレビューです)
まだ始まったばかりですが、少しでもこの話をどなたかへ届けたくてレビューを書くことにしました。
「そのバリスタが淹れる珈琲は、ほろ苦い過去の味がする」
本当にタイトルの通りでした。
「朝に淹れる珈琲のお供に」と読み始めた物語は、思いの他ほろ苦く胸を締め付ける物語です。
カップを握ったときの温もりと珈琲の雑味が、言葉の節々に溶け込んでいるような素敵な物語。
人間関係とは必ずしも思い通りにいくことばかりではありません。それでもその違いがあるからこそ、その関係はほんのり温かいのかなと、そう感じさせるお話です。
2025年本屋大賞を受賞作『カフカ』、2020年ノミネート作『ライオンのおやつ』。このあたりが好きな方は絶対に刺さる物語だと思います。
この先の物語りでお互いの苦悩をどう埋め合っていくのか……期待の一作です。