天国と地獄の狭間で

リエミ

天国と地獄の狭間で


 ここは天国と地獄の狭間。


 死んだ人間が天国へ行くか地獄へ行くか、生前の行いの善し悪しで、審判人に判断されるのだ。



 どうやら俺は死んだらしい。


 56歳という若さで死ぬなんて、俺にはまだやり残した仕事があるというのに、病気には勝てなかったか。



 俺はある大きな企業の社長で、信用も厚かった。


 しかしその分、多大な責任と負担がそこにはあった。


 俺は皆のために、そして家族のために、必死で働いた。


 無理をしすぎたのか、まさか過労で死ぬなんて……。




 それにしても凄い行列だ。


 死ぬ人間はここまで多いのか。


 天国に続く門か、地獄へ続く門か、審判人に判断された門へと導かれる。


 どうやら、地獄へ行く人間のほうが、天国へ行くことのできる人間に比べて、はるかに多いようである。



 俺は眠いのも休みたいのも我慢して働いたし、家族には優しい父親であり続けたのだ。


 俺が地獄なんて行くはずはないであろう。


 俺には絶対の自信があった。


「では、次の方」


 俺の番だ。




「ふむ。あなたは……ふぅむ、そうですか。社長さんで……なるほど。あなたは地獄行きです。では次の方」


「なに!?」


 お、俺が地獄行きだと……?


 こんなに社会にも適応し、人間としても素晴らしい男であり続けた俺が――!?


「ちょっと待ってくれ!!」


 俺は審判人に思わず叫んだ。


「どういうことなんだ!? 俺は生前、誰もが認める真面目な人間だった。自分の身を削ってでも、会社や家族のために生きていたというのに、なぜ天国ではなく地獄行きなのだ! ちゃんと俺のことを見たのか? 分かるように説明してくれ!」


「死んだ人間のことは何もかも分かります。ただし、私どもが見たのはあなたではありません。あなたの遺伝子、つまりDNAです」


「な、何……!?」


「あなたは自分のDNAが、休息などの指令を出していたのにもかかわらず、ことごとく反発して働き続けました。DNAによって生かされていることも忘れてしまって。何を誤解されているか存じませんが、人間界では、DNAがすべてなのです。性格というものは、生まれた時から、先祖から受け継がれたDNAによって、形成されているのですよ。DNAに逆らって生きることこそ、最大の禁忌となるのです。さ、次の方!」


「そ、そんな……」



 俺は地獄の門へ導かれる中、聞いた。


「ほぅ、あなたはニートだったんですか。やりたいことだけをやって……なるほど。天国行き!」




◆ E N D

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