ドッキリ大作戦!
リエミ
ドッキリ大作戦!
お笑いピン芸人の鈴木は、最近、悩んでいた。
自分のギャグがヒットしなくなったのだ。
しかも、新人の芸人がどんどん出てくる。
若手に客を持っていかれ、TV出演もほとんどなくなってしまった。
最近では、山田とかいう二十歳そこそこのピン芸人が、ブームらしい。
お笑いのくせにルックスもよく、女子のファンも多い。
下積み時代も浅く、芸歴十年の鈴木にとっては、とんでもない強敵となった。
バラエティ番組のプロデューサーは、そこに目をつけた。
鈴木のむしゃくしゃした気持ちを察してか、または山田ブームにあやかろうとしたのか、とにかくゴールデンタイムのワクに、二人を抜擢した。
よくある『ドッキリ大作戦』だった。
売れてテングになっている若手の山田に、さまざまな困難をぶつけてゆく。
仕掛け人は、彼を敵視している鈴木。
山田には内緒で、さっそくプロデューサーと鈴木のもくろみは始まっていった。
夜八時からの一時間、毎週放送されるお笑い番組。
プロデューサーは視聴率を上げるため、何週分かに分けて撮影することにした。
ラストのネタばらしの回には、そうとうの数字がとれるに違いない。
みんな期待してくれるだろう。
まず今週分に、小さなドッキリから仕掛けていくことにした。
鈴木と山田が、ニセ番組『フレッシャーズ』という、最新グルメを紹介するコーナーの打ち合わせで、初の顔合わせをする。
もちろん、壁に小型の監視カメラを仕込んでいる。
それでは、今週放送された分を見ていこう。
山田「おはようございまーす」
鈴木「おー、山田。よろしくな。しかしアレだな。この『フレッシャーズ』っていうのは、お前にピッタリの名前だな。まさに今が旬、フレッシュ山田だろ?」
山田「なに言ってるんですか、先輩。フレッシャーズ、ですよ、ズ。先輩も入ってるんですよ。これからコンビじゃないですか」
鈴木「オレはボケもツッコミも一人でこなしてんだ、相方はいらねーよ」
山田「…………」
ちょっと黙り込む山田に、さらに鈴木が追い打ちをかける。
鈴木「そういや、こないだ雑誌に載ってたじゃん。お笑いタレントの中の、イケメン・ランキングに、堂々の一位だ。すげーよな、山田。昔っから、そんなモテてたの?」
山田「いやいや。モテたいから、この業界に入ったようなもんですよ。僕の田舎じゃ、誰も興味持ってくれなかったんで」
鈴木「えっ!? そのルックスで!?」
山田「まぁ、いじめられっ子だったんですよね。運がないっていうか。今やっと、陽の光を見たって感じなんですよ」
鈴木「そっかー。でもいいよ、顔がよけりゃ、ウデなんざ二の次だ。大して面白くないネタでも、山田がやるから、笑いをとれる。やっぱお前、さすがだわ」
山田「…………」
視聴者は、この気まずい山田の表情に釘付けだ。
続いて、二週目に入った。
レストランの一角で、最新グルメを食べるロケ。
鈴木と山田の前に、それぞれおいしそうなカレーが出された。
が、見るからにして山田のほうは、色が赤い。
山田「お、おいしそうですねー」
鈴木「お前、ちょっと食べて、うまいコメントとか言ってみろよ」
山田「あ、はい。…………あれ、辛いっ、あ、いや、えっと……す、スパイシーですね!」
鈴木「山田、そんなに水飲むんじゃねーよ、失礼だろが」
山田「げほっ、げほっ、だって……」
鈴木「きたねーなー」
ここでニセのカットがかかった。
山田の食べ方がNGだったのか、このあと、何回も山田は激辛カレーを食べさせられた。
のどが炎症して、山田は声が出にくくなってしまった。
鈴木「何しゃべってるのか聞こえねーよー」
山田の慌てふためく姿に、視聴率も右肩上がりとなった。
が、山田にとっては、本当につらい撮影だった。
翌日、生放送のお笑いライブで、山田は声が出ず、ステージで一人、大恥をかいた。
会場に詰め合わせた、たくさんの客の視線が痛い。
が、それ以上にのどが痛い。
しかし、そんな言いわけなど通じない。
山田は肩を落として、家路についた。
マネージャーの許可を得て、山田の家にも、隠しカメラがついている。
そうとは知らずに、山田は泣いた。
今日のライブをしくじった後悔の念で、ずっと昔、いじめられていた頃のように、涙を流して眠りについた。
プロデューサーの配慮で、この時のVTRはお蔵入りとなり、放送を禁止した。
が、鈴木の作戦はまだまだ続く。
『フレッシャーズ』のロケ、番外編で、ペット用のエサ最新売り上げベスト3を食べさせたり、今売れているベテラン俳優のお弁当を食べて叱られたり、地味な仕掛けでは、道を歩いていると、通行人から「おもしろくねーんだよ!」といきなり罵倒されたり。
かなりリアルなドッキリなので、山田にとっては、一つひとつがこたえていった。
ある週のゴールデンタイム。
突如、番組を変更して、速報が入った。
テロップには、『人気お笑いタレント、山田さん逝く』と流されていた。
アナウンサーがニュースを読む。
「山田さんが残した遺書には、『やっぱり僕はついてなかった、ごめんなさい』という一言が記されていて、山田さんは最近、まわりの友人にも、自分は呪われている、と悩んでいたことが分かりました……」
落ち込んでいるプロデューサーの元に、鈴木がやってきて言った。
「ドッキリ、失敗しちゃいましたね……。でも、今度こそは成功させましょう! 僕、もっと面白いネタ思いついたんですよ! 次のターゲットは誰にしましょうか、今、のりにのっているピン芸人なんて、どうでしょう?」
鈴木の顔は、明るい笑いで満ちていた。
これで一人、若手を潰せた。
鈴木にとっては、この企画は大いに大成功なのだった。
◆ E N D
ドッキリ大作戦! リエミ @riemi
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