エルフの願い事


「コタローさま、お疲れではございませんか?」

「別に」

「肩にずっとカズを乗せてると重くありませんか?」

『たまご』は、誰が教えたわけでもなく、丁寧な言葉遣いをする。

少なくともミヤはそんな言葉使いは余程の事がないと使わないし、ラシードや姫もまた同じく。

何処で学んだのかは知らないが、とにかく丁寧な口調を崩さない。


そしてコタローにべったりで、ミヤとしては少しおもしろくなかったりする。


そして、なによりも問題なのは食糧だった。

朱鷺の国に立ち寄ったときにある程度は仕入れたのだが、連れが二人と半(カズ)が増えたのは痛い。

途中野ウサギとか狩って水増ししているが、それすらも手に入らないときもある。

食べられる木の実をなぜか知っている『たまご』は、食料集めに関しては貴重な戦力だ。

生まれて間もないとは言え、自力で歩き、一定の常識は身に付けていて、そして妙に博識。

この『たまご』と言う存在も、コタロー同様謎に満ちたものだった。


□■□


そんな、あまりのんびり出来ない旅の途中、珍しいほどに澄んだ川の畔を通りがかった。

飲み水はミヤの水魔法で出しているが、流れる川を見ていると、なんとなくぼーっと眺めてしまう。

疲れがたまっているのかもしれない。

なんとなく、ここを野営地にしようと誰からともなく言いだし、反対する者もいなかったので、ラシードは魚釣りに向かった。携帯食料はあるものの、出来るだけ自給自足に越したことはない。

コタローと『たまご』の面々は、面白がってラシードについて行く。

邪魔になるよなぁ、と思いながらも、ミヤはそのまま見送った。こっちにいても邪魔になるだけだからだ。


「お前結構やるじゃん」

三匹目の魚を釣ったとき、コタローが珍しくラシードを誉めた。

「あと三匹頼むぜ」

三匹?言われてラシードは数を確かめた。

姫、ミヤ、自分、『たまご』、不本意ながらコタロー。五匹いれば十分だろう。

その表情からラシードの考えを読んだのか、

「カズの分だ。俺様の携帯食料だから、もっと太らせないとな」

などと身勝手なことを言っている。

ちなみに『たまご』もコタローの携帯食料だそうだ。


勝手なことばかり言いやがる、そう思いつつ、釣り糸を垂れていると。


ちゃぷん、ちゃぱん、ザブン!

結構派手な音を立てている奴がいるようだ。

何者だ?そう思って覗いてみると、裸の女が水浴びをしていた。

見てはいけないものを見てしまった、と思ったラシードは、大慌てで視線を逸らしたが、

「おーい、ラシードが女の裸を見ているぞ」

余計なことを大きな声で言う奴がいるので、話がややこしくなった。


ミヤと姫はすぐに飛んできてラシードを川から引き剥がし、スケベ!覗き魔!の言葉と共に両頬に紅葉の跡を付けてくれるし、一方覗かれた側は慌てて衣服を身に着けたのか、こっちにやってきて思い切り叩いた挙げ句に、

「覗き代としてこの魚、もらっていくよ!」

とせっかくの釣果を取り上げられてしまった。


水浴びをしていた女は、よく見るとダークエルフだった。

ダークエルフと言っても、魔の者ではなく、肌の色が小麦色なのと髪色が派手な事が特徴だ。このエルフも、褐色の肌に鮮やかなオレンジの髪をなびかせている。

そして、出るところは出て絞まるところは絞まっているという、実に扇状的なボディラインをしていた。

姫とミヤはお互いを眺めて──ため息をつく。


と、エルフは姫を見て驚いたかのように

「あんた姫神子かい!?」

と声を上げる。

「え?あ、はい」

少なくとも間違っていないので、頷いてみせると、

「じゃあ、姫神子の一行って事!?」

「俺は違うぞ」

とっさに否定をするコタローをエルフは気にする必要もなく。

「あんたがコタローって事くらい知ってるよ。それより、この連中が姫神子の一行かって事だよ」

「ああ、そうだが」

代表してラシードが答える。

「ああ!やっとシンさまが楽になれる。代が変わっても、女神の意向があればなんとかなるはずだから」

勝手に納得すると、やっと『たまご』の存在が目に入ったのか、一瞬目を見開いたが、首を横に振って見せた。

「ちょっとあんたたち、魚は返すし夕飯もごちそうするから、家に来て」

手のひらを返したような待遇に、ついていけない一同。

そんな時、まず一番最初に冷静になるのがラシードだ。

「話が読めない。なぜお前の家に行く必要があって、姫神子の一行だとなにかあるのか?」

『たまご』はなにか悟っているようだが、あえて口出しはしない。

「ああ、姫神子の剣士にしか出来ない事なんだ」

そうなると該当するのはラシードだ。

エルフは縋るような目をして、ラシードの手を取ると、言った。

「カイさまを…殺して欲しい」






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