双子の兄


その夜は、ミヤが寝ずの番だった。

コタローは夜になるとあやかしの森に帰る。

よくわからないが、時間軸が違うらしく、この世界の夜は森の中では違う時間が動いているらしい。

食事を目当てに来るらしいが、その日によって来る時間が違うところを見ると、本当に時間の流れ方が違うようだ。


今のところ、本当に食事を集りに来ているだけだが、一体何の目的でくっついてくるのか、明日には朱鷺の国に入るというのに、どこまで着いてくるつもりなのか、不安に思わなくもない。


と、ふとミヤの視界がぼけた。

あれ?と思ったら、目の前に国に残っているはずの兄、テスが立っていた。

「~~!!」

大声を出さなかっただけ偉いと言って欲しい。それほど驚いたのだ。

「に、兄さん、いつ着いてきたの」

慌てふためく妹に、兄は落ち着いて話をした。

「今の俺はおまえにしかみえない」

「は?」

「おまえの目にしか映らないんだよ」

「じゃあ、姫やラスには見えないって事?端から見たらあたしが独り言いってるって事?」

「まぁ、そうなるな」

あっさりと肯定する。

それじゃあ、まるであたし変人じゃん!心の中で抗議しても、口には出さない。

言って聞くような兄ではないからだ。

「どういう仕組みよ」

聞いてもわかんないだろうなぁ、と思いつつも、聞かずにはいられない。

「簡単なことさ。俺とおまえが双子だからだ。『誰よりも一番近い存在』だからだ。

おまえのみた物は俺も見えるし、聞いたこと、感じたこと、すべて望めば手に取るように分かる」

思わずミヤは顔を染めた。感じたことすべてって、それって!

「あ、普段から繋がっているわけじゃないから気にするな。特別な事があった時とか、おまえが一人の時とかにたまに覗かせてもらっているだけだ」

「プライバシーの損害です」

「おまえの口からプライバシーなんて言葉が聞けるとはな」

カラカラと笑う兄がなにかムカついて、切れない紅い短剣を振り回す。

それを避けながら、幻影のテスは言った。

「今の俺はその剣に触れたら消えてなくなるから止めろ。

忠告に来たんだ、おまえを揶揄に来たわけじゃない」

「忠告ぅ?」

じゃあ、今までの遣り取りはなんだったのか。そう思いはしたが、兄の忠告は聞いておいて損はない。

「ああ、明日には朱鷺の国に入るだろう。なにを言われても、どんな侮辱を受けても、とにかく我慢しろ。

おまえが堪えられなくなったら、俺が入れ替わるから」

「い、入れ替わるって、あの、兄さん?」

「それくらい出来る。憑依に近い状態だけどな。朱鷺の国は、先代姫神子が母神帰依を失敗したとき、かなりの痛手を被っているから、姫神子に関してはかなりの恨みを持っているからな」

そう聞いて、ミヤは戦慄した。

口は悪いし、腹の立つ相手ではあるが、基本ミヤは姫のことは嫌いではない。幼なじみで、むしろ好意を持っている。

その姫を莫迦にされて黙っている自信はない。覚えて間もない、コントロールの怪しい魔道を繰り出しかねない。

ちなみにミヤの魔道はしょぼくはない。威力は爆発的だが、コントロールがヤバいのだ。

「とにかく抑えろ。なにがあっても、なにを言われても、だ」

「が、頑張る」

兄に身体を乗っ取られるなんて気持ちの悪い真似をされるくらいなら、この際我慢してみよう。

心の中で誓うミヤだった。

「それと」

何故だかテスの姿がブレる。

「最近うろちょろしている黒い奴」

「コタローの事?」

「名前は知らんがそいつにも注意しろ。あいつはなにもかも…」

声にノイズがかかって聞き取れない。

「コタローがどうかしたの?」

「なにもかもしっ…」

そう言い残して、テスの姿は消えた。

まるで何者かが妨害しているような消え方だった。


まったく、言いたいことだけいっていなくなるのは昔からだ。

プリプリ怒っていると、テントからラシードが出てきた。


「どうした」

「あ、起こしちゃってごめん」

「いや、そろそろ交代の時間だから。

それよりなに怒ってるんだ」 

ミヤは、包み隠さずテスからの情報を開示した。

「双子だと損無きような真似が出来るのか。それともテスだから出来るんだか」

二人の通信会話にあきれ半分関心半分で話を聞いたラシードは、明日姫には厳重装備が必要かと思った。


そして気になるのが、コタローの話。

誰かにじゃまされたらしいのは分かったが、果たしてそれがコタロー本人なのか第三者なのか、それでまた対処が変わる。


ともあれ、明日の朱鷺の国入りの時は注意が必要だと肝に銘じた。





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