コタローが出た!


翌朝、ミヤの悲鳴とともに起床の合図となった。

ラシードもなんだかんだ言いながら、船をこいでいたのだ。


何事かと思って来てみると、荷物を漁る黒い姿。

子供のような背丈の生き物がらバサバサな髪を頭頂で縛り、荷物を漁っているのだ。


「なにをしている」

ラシードが剣を首もとに当てて、その黒い人物に詰問をした。

その人物は、髪も黒く肌も黒い。着ている衣装も黒く、全体的に黒いイメージだった。

この地域に住んでいる住民は、黒髪のものはいない。よって妖の森の住人と言うことになる。


「再度問う。お前の目的はなんだ」

ラシードは、事と次第によっては首をはねるつもりだ。

姫を害なす者は、何人たりとも見逃すわけには行かない。


が、黒髪の彼は何事もないように答えた。

「俺か?俺はコタロー。連れは非常食のカズ。姫のご一行だろ。森では食えない物があるから分けて貰ってるだけだよ」

連れと言われて気が付いたが、小型の竜のようなものがコタローの肩に乗っていた。


コタロー自身は悪気が全くない。

それどころか、ごく当たり前のことを遣っている様子だ。

ラシードは、剣をしまい、コタローの襟首を掴んで荷物から離した。その手にはしっかりと非常食である乾燥肉が握られていた。


「それやるからもう付いてくるな」

そう言ってラシードは追っ払おうとしたが、コタローは奇妙なことを言い出した。

「お前、姫か?」

視線はまっすぐみやを見ている。

「なに?何の騒ぎ?」

簡易宿泊施設から顔を出した姫を見て、「お前からも姫のにおいがする。お前の方がにおいが強いな。浄化をしたのか」


コタローは、なぜか姫のことに関しては詳しい。

「でも、そっちの女からも姫の匂いがする。微弱だけど、姫の代わりか?

また駄目になったら目も当てられないからな」


また駄目になったら。何度となく聞かされた言葉だ。

今回は必ず成功させなければいけない。

だから、希代の神官と言われている兄(テス)の妹であるミヤが魔導士として同行しているのだ。

なにかあったとき、命を投げ出す覚悟もある。


一同は、取り敢えず朝食の準備に取りかかる。と言っても、固焼きのパンと、炙ったソーセージ、簡単なスープだ。

今日中にたどり着けるはずの朱鷺の国で、もう少し食料を買う予定だ。


コタローは、少し離れたところにいたが、火をおこした途端にやってきて、干し肉をあぶり始めた。

「あんた図々しすぎ!」

怒るミヤに、あきらめ顔のラシード、関わっちゃ負けと決め込んでいるのか、あえて無視をしているような姫の三者三様の態度に、何の悪びれもなく加わるコタローだった。

荷造りをして、目的地に向かうのにちゃっかり付いてくる様子だ。

「お前の好きにしていいが、決して邪魔はするな!事を起こすな!なにかやらかしたら、速攻棄てるからな」

ラシードが凄んで見せても何処吹く風。

却って、

「姫君の事なら俺様がいた方が役に立つ。感謝するときが来るからついて行ってやる」

と偉そうな態度をとられ、毒気の抜かれる一同だった。

もう好きにして。そうとしか言いようがない。


こうして、旅の仲間は役に立つのかたたないのか、コタローと言う謎の生き物が加わることになった。

もちろん、カズも一緒だ。

一人?と一匹の増えた一行は、とりあえず朱鷺の国を目指すことになった。








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