朱鷺の国にて
俺、この国好きじゃないから入らない。出てきたら出口で待ってる、と言うコタローの勝手な言い分に、正直青の国との間にいざかい…とまでは言わないが、あまり言い干渉をもたれていない朱鷺の国は、出来れば来たくない場所だった。
聞いた話だと、先代の姫神子が国王候補の王子と、国一番の魔法使いを亡き者にしたとか。
今は国境の部分にある
だから、姫だけはベールをかぶせて出来るだけて立たないようにすることにした。国王一家ならず、国民も青の国のことを良く思っていないのだ。
さすがに母神回帰の旅は邪魔はされないが、突き刺さる視線が痛い。
『あのベールの娘が姫神子なんだろ』
『お着きの娘も紅い石飾りをつけてるぞ』
『あの紅は姫神子だけに赦されたものだろう』
『代理か?前回の二の舞にならないように』
『でも、母親の腹から生まれた段階で血の汚れっつって姫になる資格はなくなるはずだが』
『青の国だからな、何でもありなんだろ』
と勝手なことを言う国民の声を聞きながら、自分の耳にはまっている耳飾りはなんのためにと思うミヤだった。
ラシードはなにを言われても表情筋一つ動かさず、姫の護衛に徹している。
ミヤも余計なことを考えずに、姫を中心とした決壊を張った。多少のダメージは防げるはずだ。
一同はそのまま、神殿に向かう。
この国の神官に会うためだ。
神官は紙の言葉を聞き、国をまとめる役目をしている。
なので、挨拶をせずにはいられないのだ。
たとえどんなにいやな奴だろうと。
神殿の下段から、姫神子一行は挨拶をすることになる。
「このたびは、朱鷺の国神官さまアマードさまに置かれまして御健やかな事、お祝い申し上げます」
頭を下げ、見たくもない顔を少しでも見ないように頑張った。が、
「顔を上げい」
の一言で、見ざるを得なくなってしまった。
外見は悪くないが、中身の腐敗臭がその外見にまとわりついているようだ。
その昔は神託も良く降り、信心深い国だったのに、いつの間にか神よりも自分たちを信じるようになった。
まぁ、先代の姫神子時にかなり痛い目似合ったので、それは仕方ないかと思われる。
「で?今回はきちんと母神回帰を果たしてくれるのだろうな。そうすれば、再び神に祈りを捧げようぞ」
一応お勤めはしているようだが、中身が薄いため、女神としてもどうしようもないのだろう。
「はい、必ずや」
そのために今回は青の国の人間で隊をそろえたのだ。なにがあっても朱鷺の国から文句を言われないために。
姫は強い意志で言い切った。
そのためには、まずこの溜まりきった澱を正常化させる必要がある。
姫は両手を地について、なにやら言葉を紡ぐ。
この神殿でやるより、直接地に触れ、水に触れた方が効率的ではあるが、疑われている以上、すべての脈が集まるこの場所で遣るしかない。
思った以上に溜まっていた澱をその身体に吸い込んだ姫は、めまいを起こし、あわててミヤが支えた。
その時、なにやら重苦しいものがミヤの身体の中に入り込んだ気がするのは気のせいか。濁ったような、正直気持ちのいいものではない。
ラシードは、姫の体調の悪さを理由に、早くこの国を出ようと思った。
朱鷺色の髪をした人の中で、青い髪は目立ちすぎる。なにかされてからでは遅いのだ。
□■□
退出の挨拶もそこそこに、国境門を抜け出すと、少しは落ち着いたのか、姫の呼吸が元に戻った。
「…凄い瘴気だったの」
元々青の国を嫌っているのはわかっていることだが、それ以上に先祖を青の国の姫君によって無くしたのが未だ語られているのだろう。
「ミヤに支えて貰ったら、少し楽になったわ、ありがとう」
「そんな、あたしはやるべき事をやっただけで、ほんの少しの回復は掛けましたから、その所為じゃないです?」
自分の中に入ってきた淀みに関しては、あえて黙っていた。その方が今はいいかの思ったのだ。
「おー、やっと出てきた」
何事もなかったかのように、コタローはどこからともなく現れた。もちろん、非常食のカズも一緒だ。
「この国、重苦しすぎで居心地悪いんだよ。俺の存在なんて気がつないでやんの。よほど魔力が枯渇しているんだろうな」
どうやら魔力がないと、コタローは見えないらしい。
「そんなことよりめしー!鳥とっておいてやったから、感謝しろよ」
さすがに国境門を目の前に野営の用意は出来まい。
少しはなれたところに野営の用意をして、食事をし、今夜はラシードが寝ずの番。途中で三ミヤと交代予定だ。
静佳に過ごせる夜が、その帳をおろしていった。
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