たまごパニック



「ねえ、ミヤ。また大きくなったんじゃない?」

「うん、少し重いかも」

「なあ、卵のうちに食っちまおうぜ、孵るとやっかいだ、カズみたいに携帯食になっちまう。捌くのが面倒なんだよ、このサイズになると」

コタローの方のあたりを飛んでいたカズは、思わず少し距離をあける。

ラシードは無言だ。なにを言ってもミヤが聞かないのはわかっている。

今となっては赤子サイズの卵を胸元に縛って、姫神子用の騎乗生物凪(なぎ)と歩調を合わせつつ(どちらかと言えば、凪の方がミヤにあわせている感じだ)、のたりのたりと歩いている。


事の起こりは、姫が朱鷺の国で余りにも瘴気をその身に吸収させた所為。何故かその一部をミヤが請け負うことになったのだが、それでもヒメは動くことが出来なかった。

このままでは足止めされてしまうし、次に向かう森の国の瘴気を吸い取ることか出来ない。ミヤはあにであるテスと相談して(ミヤ一人の時に、ミヤの網膜に映ることが出来る双子ならではの魔道だ)、一部をしらの神殿におわす白金の神に預けることにした。

ミヤの身体を借りたテスは、小さな身体の姫を労しげに見やると、眠る姫の額の石にそっと手を当てて。

とたんに重くなるミヤの身体。

その後、なにをしたのか良く分からないが、小声で呪文を唱えると、一気にミヤの身体が軽くなった。

それまで寝苦しそうにしていた姫も、安らかな寝顔になっていた。


そんな折り、道の端っこに小さな──と言っても鶏の卵より少し大きいくらいの卵を見つけた。

何故かとても大切に見えて、つい胸元に仕舞ってしまったのだ。


その卵は日を追うごとに大きくなっていき、ラシード達にばれる頃には、ダチョウの卵くらいになっていたのだから、もう隠しようがない。

何の卵か分からないから捨てろ、人食いトカゲでも出てきたらどうすると主張するラスに対して、なにか神聖なものを感じるミヤは大反対して、今では一抱えもありそうな卵になっている。

ラシードはなにかあれば事故責任で、と傍観の体。姫はなにかおもしろそうなことがありそうで、楽しみに見ているし、コタローに至っては、食用としてしか見ていない。


ミヤの一番の敵はコタローだ。

なんとしてでも、卵を護らなければ行けない。


そんなある日の朝、卵にひびが入った。

中から突っつくような音がして、そのうち、メリメリと皮を向くような音が響き始めた。

ラシード、姫、ミヤの三人は孵化を見守りながら、なにが出てくるかを凝視していた。

ラシードに至っては、剣の柄に手を掛け、なにかあったら切り捨てる覚悟だ。


薄皮が破れ、外の堅いからが破れたら、中から出てきたのは。


「まま!」

そう言ってミヤにしがみつく四、五歳くらいの少女。

ラシードは剣をしまい、姫はあまりのかわいらしさにメロメロだ。

ミヤはいきなり『まま』呼ばわりされてどうしていいのか分からない。

「あたし、『たまご』と言います。

今まであたしにに魔道ちからを与えてくれた人、まま!」

そう言って、ミヤの足にしがみつく。

卵色の髪に、瞳。まだ何物にも染まっていない、もしかしたら染まらないのかも知れない幼子を放って置くわけには行かない。


と、そこにコタローが現れた。

「なんだ、孵っちまったのか。だから卵のうちに食べようと…」

コタローが言うのを遮るように、たまごはコタローに突進していった。

あまりのことに交わすことも出来ず、そのまま受け止めたコタローに、

「すてきな方です。ご一緒させてください。もちろんママ達と一緒に」

だめですか?かなりの美少女のたまごに懇願されて、混乱したコタロー、つい同行を認めてしまった。

そして半ば強引に、コタローと同行の旅が確定まったのだ。





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