UFO研究家
リエミ
UFO研究家
UFO研究家の博士は、頑固な性格で有名だった。
人々の誰もが「ありもしない」と、UFOや宇宙人の存在を否定しても、博士だけは「存在する!」と言い張っていた。
博士は若い頃から、UFOが空から降りてきて、宇宙人が自分と握手する光景を、何度も夢に見ていた。
宇宙人が悪者であるわけがないと、博士は思っていた。
宇宙人は友好を築く為、いつの日か必ず地球にやってきてくれる、と信じて疑わなかった。
博士は研究家として、何度もお茶の間にTV出演したが、その熱弁ぶりに共演者おろか、スタッフまでも大爆笑。
もちろん世間も笑いのネタとして博士を認知していた。
博士はめげることなく、何冊も本を出版した。
買う者は少なく、博士の懐に大それた収入はなかった。
博士はただっぴろい草原の真ん中に立ち、空を仰いだ。
真夏の暑い時期だった。
太陽の熱を受けて、じりじりと草原が揺れる。
蒸し暑さが、博士の額に汗を浮かばせていた。
博士はずっと待っていた。
UFOから宇宙人が降りてきて、自分と握手する時を。
そうして何年間も、もう何十年間も待ち望んだことだ。
博士の真上に、一台のUFOが現れた。
突然のことに、博士は少しは焦ったが、だが、UFOの出現は至極当然のことだ、と思いを切り替え、博士は歩いた。
UFOの着地した元へと。
草原の一角で、UFOからひとりの宇宙人が降り立った。
博士の思い描いていた通りの姿だった。
博士は、これには勝利を覚えた。
どうだ! みんな! 私は間違ってなかったぞ!
心の奥で、博士は叫んだ。
そして、博士はアレをするのだ。
そう、長年夢に見ていた、宇宙人との握手。
「やあ、こんにちは」
と博士は言って、ひとりの宇宙人に近寄った。
「あなたをずっと待っていましたよ。もう何十年と待ち続けたのです」
言いながら、博士は手を差し伸べた。
すると宇宙人も、「コンニチハ」とかたことで喋り、細い手を伸ばしてきたのだ。
が次の瞬間、握手するため近づきすぎた宇宙人の足が、博士の足に重なった。
「おいおい、足踏むなよー」
何気なく呟いた博士の言葉に、宇宙人の体がピタッと固まった。
そして、「コノ星モダメダッタカ……」と宇宙人が言い放った。
「ナカヨクナレルワケナイ……足フマレタグライデ、オコルトワナ……」
言い放った直後、宇宙人はUFOへ素早く入りこんだ。
そして、あっという間にUFOは空のかなたへ消えて行った。
取り残された博士はひとり、握手の手を差し出したまま、呆然となった。
じわじわと草原の地面に陽炎が揺れる。
言いようも無い苦さや後悔の念が、博士を包み込んでいた。
お茶の間でUFO特集を見ていた人たちは、「あの研究家はやけに優しくなったなぁ」とか、「以前に比べて頑固でなくなった」など、博士を見る目を変えていた。
いつ見ても、博士はにこやかに笑い、共演者がちょっと肩をぶつけても、「ああ、大丈夫ですか」と相手を心配する気遣いよう。
相変わらずUFOの存在を信じてはいるが、「今後、地球に降りてきてくれるか」との問いかけに、「NO」と答えを返す博士だった。
それ以来、なぜかは分からないが、博士の本は売れている。
◆ E N D
UFO研究家 リエミ @riemi
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