尾探しヘビー

リエミ

尾探しヘビー


 大きなヘビが現れた。


 地面の中から現れた。



 はじめ、体長2メートル程だったが、動物園のオリの中で、徐々に伸びだした。


 すぐ、オリはいっぱいになり、ヘビは別の場所に移されることとなった。




 郵送トラックに詰まれたケージ内で、ヘビは頭に麻袋を被せられ、自分がどこへゆくのか分からないまま、静かな眠りについていた。


 寝る子はよく育った。


 運転手がケージを見た時、ケージははち切れんばかりに歪み、ヘビの皮膚を食い込ませていた。


 慌てた運転手がケージを開けたのがいけなかった。


 ヘビはやっと開放されたと、スルリと逃げ出し、道路を波のように這って行った。


 麻袋はそのままなので、ヘビは自分がどこへ進んでいるのか分からなかった。




 ヘビはその間にも成長をやめず伸び続けた。


 それに伴い太ったので、頭の麻袋がはち切れた。


 細胞が増殖を繰り返し、何度か脱皮をした。


 目に入るものをすべて飲み込んで栄養をつけ、どんどんと、限りなく長く伸び続ける。


 そのうち、ヘビは自分のしっぽを見失った。


 ヘビの目的は自分のしっぽを探すことに変わった。




 右往左往しているうちに、ヘビは住宅街へ踏み込んだ。


 目撃者はこう語る。


「幅は人間くらいあった。奴が去った今でも、胴体が移動しきれず残っている。ほら、そこかしこに」


 ヘビの体が伸びるので、住宅街の道という道は、すべて胴体で埋め尽くされてしまっていた。


 人々はその体の上を歩いてゆく。


 たまにうねうね動くので、気をつけて歩くのだ。




 機動隊が出動した。


 人々を危険に晒すので、体を切断しようとしたが、動物愛護の団体が動いたので、迂闊に手を出せない状況となった。


「ヘビは、自分のしっぽを探している」


 と、騒ぎの間から、一人のヘビ使いが現れて言った。


「ヘビは、重い人生を抱えて生きていかなければならない」


 それを聞いた人々は、ヘビの名を“尾探しヘビー”と呼んだ。


 重いとヘビをかけたのだ。


 このヘビーなヘビは、世界中の注目を集めた。



 学者が揃ってヘビの生態を調査した。


 そこらへんに伸びている胴体から、皮膚を採取したり、血液を取ったりして調べた。


 しかし、ヘビはヘビだった。




 ヘビ使いが、人々の前に出て、こう提案した。


「一緒に探してあげてはどうだろうか」


 人々はヘビの体を辿って歩いた。


 上空からヘリでの追跡も行われた。


 が、しっぽはどこにも見つからない。


 このままじゃヘビがかわいそうだ。


 動物愛護団体も、このまま見過ごしているなんて残酷なことだ、と言った。


 みんなの意見が一致したので、ヘビは安楽死という方法を試されることになった。




 ヘビ使いが、


「ヘビには、しっぽが見つかったと嘘でもついて、安心させてやりたい」


 と言ったので、人々は人工的に作ったヘビのしっぽを、ヘビの頭の元へ、みんなで運んだ。


「ほら、尾探しヘビー。お前のしっぽだぞ」


 ヘビ使いがヘビに、ヘビ語で呼びかけると、しっぽを見たヘビは、嬉しそうに舌をペロペロ出して喜んだ。


 しっぽをエサにつりながら、人々は特別に用意した安楽死用毒ガス室へ、ヘビの頭を誘導した。


 そして、胴体があるので完全には閉まらないが、とにかくガス室へ、頭を閉じ込めることに成功した。


 外から毒ガスを注入した。


 ヘビの意識は朦朧となるが、なかなか大きいので、効果が出ない。


 通常の何百、何千倍という毒ガスが噴射され、ヘビもそろそろ力尽きるかと思われた。


 が、甘かった。



 ヘビは成長を続けすぎた。


 ガス室の壁が、亀裂をなし、破壊された。


 充満していた強度のガスが、その周辺にいた人々へふりかかり、多くの息の根を止めた。


 ヘビは朦朧としながら、伸び続け、そしてとぐろを巻きだした。


 高く、高く巻き続け、ついには天高く伸びる竜のようになった。




 狭かった地球を飛び出し、宇宙に進出したヘビは、遠くのほうから、自分の本当のしっぽが伸びてくるのが見えた。


 しっぽは宇宙の中にあった。


 巡り会えたしっぽをくわえ、巨大な輪になって、ヘビは宇宙を漂った。



 それから、ある惑星に到着した。


 その星に住んでいた人は、空から何か小さなリングが落ちてくることに気づき、手を伸ばした。


 一人の手のひらの中に、ヘビはちょこんと着地した。


 ヘビは、この星は広そうだぞ、とでも思ったのか、元気に這い出した。


 そして、森へ向かい地面に潜ると、冬眠を始めた。


 また目が覚めたら、再び移動。


 ヘビは自分のヘビーな人生を知っていた。


 ただ悲しいのは、自分のしっぽと、あと何度でも離れ離れになってしまうということだった。




◆ E N D

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