自分ではない何かになりきれなかった男へ

作者の猿川さんはざらっとした違和感を文章にするのがとてもうまい。
同じ傾向のものに風俗嬢を買う「バシ」という秀作がある。この作品も密室の内装や音など、行為の前後、最中に感じるものを周囲との違和感で表現している。
本作も母と息子の自然な世間とのずれ・背徳感をラストに匂わせている。
膣的なものを開発される男が主人公だが、彼の変容願望はあくまでも半歩踏み出したところでとどまっている。

尻では世界は変らないのである。

遠くない将来、家庭を持ちながら女装する側に踏み出すかもしれない、その危うさを楽しむ本作。面白かったです。