グロッタ
猿川西瓜
第1話 クラブマーメイド
街の大通りから少し路地に入り込んだところにある、水商売や風俗のお店や古びたホテル街。
そこで働く人間か、それ目的の客しか出入りがなさそうなファミリーマートの向かいにあるビルの一角の階段を降りる。
暗い廊下の突き当りに、クラブマーメイドという女装風俗店がある。
僕はインターホンを押して予約していたことを告げる。
左を見ると、淀んだ青色に光る部屋に洗面ボウルと空っぽの水槽。更にその奥には段ボールの箱が山のように積みあがっていて、隙間から幾つものシーツともタオルともつかないものが絡まってはみ出ていて、つららのように垂れ下がっていた。青白い光の中、つららの先端には茶色い染みが見えた。
扉が開くと、ボーイが僕の顔をちらりとみて、ついてくるように言った。正面奥のドアの隙間から、モダンなソファーとベッド、それからヒョウ柄カーペットが敷かれた大部屋が見えた。右に曲がると廊下に両側三部屋分ドアが並んでいる。僕は左側一番奥のドアに通された。
「しばらくお待ちください」と、告げてボーイは去った。
静寂の中で、水がチョロチョロと流れる音だけが聞こえた。クーラーが強力に効いていて、寒い。
女装風俗店の室内はゴシック風で、部屋の中には鉄格子を模したものや、木馬や十字架のような、体を拘束する道具が配置されていた。今回のコースはアナル開発コース二万円なので、そのどれも使うことはない。
天井は全部鏡張りだった。ベッドの隣もすべて鏡で、もしかしてマジックミラーではないかと思った。
――盗撮とかしているのならば、その映像が欲しい……!
心が不安定になった時、動画を観てホッとすると思う。
女性のように喘ぎ声をあげている自分を見たかった。画面の向こう側に行けたような、自分が何かの作品になれたような気がするからだ。
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