役割からの逸脱

孫の顔がみたいと親からせっつかれる年齢の彼女持ちの「僕」は、同年代の女装おじさんを買う。もし盗撮しているのならその映像が欲しい、その理由は「心が不安定になった時、動画を観てホッとすると思う」から。
主人公が女のように喘ぎながら男に抱かれるのは、「男」という属性にのしかかる様々な役割や責任を忘れるための手順なのだろうか。そもそもセックスとは何なのか。「身体的な意味での性別」と「性行為」がなぜ同じ単語で表されるのか。境目をあいまいにしても、逃れられない何かがある、そんなことを突きつけられた気分だ。
主人公は心情を吐露しない。それなのに、ラストの切なさが読後ものしかかってきた。
この曰く言い難い切なさを、たくさんの人に感じ取って欲しいです。