Dive20
僕はスマートフォンを取り出してGoogleの検索窓に人口増加対策推進協議会と入力した。すぐにそのキーワードに関連した様々なページが表示される。僕は検索結果のページ上部に現れた人口増加対策推進協議会の公式サイトにタップする。次にトップページにある人口増加対策推進協議会の概要をクリックした。薄いブルーの背景に人口増加対策推進協議会委員長からのあいさつが表示された。
近年日本における人口の減少は下降を続けています。ご存知の通りすでに13の市が街として機能しておらず、日本がかつての日本としての形を維持できなくなってきています。この国から日本人がいなくなってしまうという未来も、そう遠くはないのかもしれません。
そこで私たちの役目は、ありとあらゆる側面から人口減少の原因を研究、解析を行うことで人口減少を少しでも上方に変化させることです。
私たち人口増加対策推進協議会は新しい発想を元に、ある一つの傾向に注目することで人口の減少を止めることが可能であるという結論にたどり着きました。
計画はすでに開始され、現在は私たちが理想とする形に近づきつつあります。今後もより一層、この計画を発展させた人工の減少による日本国民の不安を取り除くことに全力を注いでいきます。
予想していた通り結局彼等が何をしている組織なのかは、このあいさつからは全く見えてこない。こういった各省庁の審議会や機関はおそらくどのホームページを見ても大体こんな感じで全容がつかめないものが多い。
それはどの組織が本当に存在していて、どの組織が名前だけで実態がないのかを国民には判別できないようにするためである。人口増加対策推進協議会なる組織もその一つで、名前だけの組織である可能性もある。人口増加対策推進協議会のページをくまなくチェックしていると、スマートフォンに表示された小さな文字と車の穏やかな振動の相乗効果から、すぐに激しい眠気に襲われて、いつの間にか眠ってしまった。
「レンガちゃんっ 早く起きないと学校に遅刻するわよ」
「……ん?」
そんな声に少し重くなった瞼を開くとレラージェが僕を見ながらニヤけていた。起きると外はいつの間にか暗闇に変わっている。車は住宅街にある見覚えのない公園の横に駐車していた。ケシキの家に行ったことは一度もない。ただ過去に僕が住んでいる彩木町からバスで40分ほどの距離にある水穂町に住んでいるとケシキが言っていたのを覚えている。
「もしかして寝てた?」
「……少しね」
「ここは?」
「水穂町。ケシキの家のすぐ近くにある公園」
「着いたのか……ケシキの部屋に行く前に1つ気になることがある」
「なに?」
「ケシキの自殺が偽装だとして、葬儀とかは行なわれてないのかな?」
「葬儀なら明日だよ」
「僕はその葬儀に出なくていいのかな?」
「ケシキが生きていることを知っているのに葬儀に出たいわけ? どうかしてる。ケシキの突然の死に、泣く人達もきっと沢山いる。そんな場所にわざわざ行くなんて趣味が悪いよ」
「クラスメイトとしての体裁の問題がある。 それに12月の天国に関わってる奴らが、もしかしたらいるかもしれないだろ?」
「いたとしても葬儀に来る奴なんて大した情報は持ってないよ。とにかく今はケシキがどこまで調べていたのかを知るのが先」
「わかった」
「ケシキの家に行ったことある?」
「もしかして僕をあてにしてた?」
「してない。ただの質問。ただお互いが大切な関係なら……」
「なんだよ。僕とケシキは別に付き合ってたとかそういう関係じゃないんだぜ。そもそもすぐにそうやって恋愛感情に結びつけるのは‥‥‥」
「そこまでは聞いてないし興味もない」
「だけどケシキの家に行ったところでそんな簡単に入れるかな?」
「大丈夫。侵入するのは、はじめてじゃない」
真実や結果は向こうからは勝手にやってこない。行動することを選び、それを実行した者にだけ結果が現れる。ただ僕は少しだけ恐怖を感じていた。強さの塊のようなケシキの計画。傘凪市で一番の高さを誇る九紋ビルから飛び降りた理由。そんな選択をしなければならなかった理由を僕達はこれから覗こうとしているのだ。ただ恐怖を感じている自分と同時に、なんとしてでもその理由を知りたいと思っている自分がいた。恐怖と抑えることのできない欲求が混ざりあった状態。
止まればそこで終わりだった。だけどそれだけはどうしてもできなない。僕の脳裏に蘇るケシキのシルエットは徐々に薄くなりはじめていた。
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