Dive25
「おいっ 聞いてるのか? どういうつもりだ?」
「汚いものを燃やしても綺麗に感じることってあるんだなって……」
「はぁ?」
「汚いものは全部……消さないと……」
「レンガくーん。行くよぉ」
玄関の方からレラージェの声が聞こえてくる。急いでリビングを出て玄関に向かうとレラージェだけが僕の到着を待っていた。レラージェは必要性の感じられないほどに大きな天井と同じ高さまである大きな靴箱を勝手に開けて中を物色していた。
「こいつの靴コレクションは靴に愛を感じない」
「大きな靴箱だ」
「それよりいったい君はなにをしてたのかな?」
「灰原司が金庫に隠していた札束を燃やした。1000万円くらい」
「なにそれ面白ろっ ププッ」
レラージェは手で口を抑えて、笑いをこらえている。すでに車に乗って待っていたユウグレから苛立ちを含んだ視線が僕に向けられた。
「遅すぎ。なにしてたの?」
「灰原司が手錠を外してくれたら500万くれるって言ってきた」
「それでまさか外したとか言わないよね?」
「外してない。そのお金の場所を聞いて燃やした」
「燃やした? 全部?」
「全部。多分1000万円ぐらい」
「あはははっ レンガ。あんた最高」
「まずかったかな?」
「どうせ汚れた金よ。まずくなんかない」
「よかった。これからホテルに行くんだろ?」
「ええ。久遠寺サイロに会いましょう」
静かな住宅街にエンジン音が鳴り響く。一人の人間を拘束し、暴力を振るい、お金を灰にしたにも関わらず、僕は不思議と穏やかな気持ちで満たされていた。求めているものに近づきつつあるのを感じた。一つだけ言えるのはユウグレと出会ったことは正解だったということ。きっと僕一人じゃここまで来ることはできなかっただろう。普通の高校生が絶対に体験することのない、目の前で起きたことのすべてに、なぜだか僕は恐怖を感じていなかった。
地球上にいる自殺者を事前に知る。そんな陰謀めいた話が本当に実在するのだろうか? なんだか餌の正体を知らずに飛びつく魚になった気分だった。釣り上げられればバラされるだけかもしれない。どのみち魚は地上じゃ生きられない。だけど水中で生活している時点で、生きたくないと思っている魚は、地上でバラされる瞬間に、一体なにを思うのだろうか。
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