私のいないクリスマス

 あの子を残してこちら側に来てしまうなんて私たちは本当に酷い親だった。


 その瞬間のことはあまり覚えていない。

 雨で濡れた道路にスリップした対向車が私たちの車に突っ込んできた。

 眩しすぎるライトの光の中、最後に見たのは助手席に座る私を庇うように伸ばされた夫の腕だった。


 次に目が覚めた時、私たちはあの子の前に立てていた。すぐにおかしいと気がついた理由わけは、泣いている目の前のあの子を抱き締めてあげることも、慰めてあげることも出来なかったから。


 私のことを、夫のことを呼び、泣きじゃくるあの子に何もしてあげられない私たちは、親のくせに親ではなくなってしまった。


ゆき、今年のクリスマスはゲームが欲しいんだって』

『友だちはみんな持ってるもんな』


『父さんと母さん、あれじゃバレるよな』

『そうね、バレちゃったわね』

『サンタは筆ペン使わないだろ』

『見て見て、ゆき表情かお


 毎年、毎年、クリスマスは特に気になった。


『ぼくに お父さんとお母さんをかえしてください』


 私たちがいなくなった最初の年のクリスマス、あの子がサンタクロースに願ったプレゼントがそれだったから。


 その願いを知っても叶えてあげられない私たちは、やっぱり親とはいえなくて。

 あの子が泣けないのに、私が泣いてばかりいることにも情けなくて仕方なかった。


 ―― だけど。


 今、止まってしまった私たちの年齢を越えたあの子の傍にはたくさんの温かな幸せがある。


 欲を言えば私だってあの輪に入りたかったけれど、でも、何でもないことに笑ったり拗ねたり喜んだりするあの子を見れて本当に嬉しい。


「父さんと母さんには僕から。じぃちゃんのは特別、萌が最初から最後まで一人で作ったケーキだよ」

「おじいちゃん、いつも通りパパが作ったのがいいって言ってるかもね!」

「そうかもなー」

「え! ひどい」


 笑うあの子の声が響く。

 あの子のまわりにも笑い声がたくさん。

 嬉しい。本当に嬉しい。


 泣き虫な私の涙はまた零れてしまうけど、サンタクロースに願いが届くなら、あの子のそばに柔らかな雪を降らせてください。

 そして道行く人が空を見上げて『雪だ、雪だ』と微笑んでくれたらいいな。 私の代わりに、あの子の名前を誰もが呼んでくれたらいいな。


『さぁ、今年もあの子のケーキ頂こっか』

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誰かが足りないクリスマス 嘉田 まりこ @MARIKO

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