明日の黒板

現夢いつき

明日の黒板

   ○


 僕が春子のことを意識し始めたのは、思えば小学校の頃だった。といっても、それは強いて言うならであり、絶対にそうであるという確証はないに等しい。とっちらかっている記憶の奥隅を探しに探してようやく一つ出てくるだけである。

 小学校四年生のある日、彼女の絵を描いた。それが(本当にあるのだとしたら)僕の恋心の原点なのだと思う。

 授業中暇な時や、休み時間の時に僕はノートに彼女をスケッチした。幸いなことに、席が隣同士になることが多く、すぐ横を見れば、彼女の顔があったのだ。

 真面目に先生の話に耳を貸す彼女の顔、休み時間になると電源が切れたように、机に突っ伏す彼女の姿。

 僕はその全てを書き写した。恋愛感情などはなかったけれど、どうしても彼女のことを描きたくて堪らなかった。


 ミミズが這ったようなと形容される字しか書けない僕が、彼女を書くときだけ美しい曲線を引くことができた。持ちたくないと常日頃から思っていた鉛筆が、まるで自分の身体の一部になったようだった。


 それが高じて僕は中学高校と美術部になったのだけど、やはり彼女を描くときが一番楽しかった。恋愛感情を自覚してからは特に。




 昼下がりの教室には、誰一人として生徒がいない。卒業式は午前中で終わっており、殆どの生徒が下校してしまったからである。

 皆が両親のもとへ向かう中、僕はその流れに逆らうようにこの教室に残った。それは何も、僕は極度の天邪鬼だからという訳ではない。


 春子を待っているのだ。


 二月という季節柄、雪がぽつぽつと降っていた。四階にあるこの教室から下の方を見下ろすと、一目で野球部だとわかる坊主頭の集団が見つかった。

 確か野球部は今から焼き肉に行ったり、カラオケに行ったりするのだっけ。我が美術部はそんな気の利いた催し物など何一つ無かったけれど。

 吐いた息が白くなって空気中にとけていった。


 このまま、思いの丈を春子にぶつけたらどうなってしまうだろう、と僕は思った。十中八九振られてしまうのだろうが、それでも、わずかに残っている期待感が僕を落ち着き無くさせた。

 寒さとそわそわとした感覚。その二つを紛らわすために、僕はチョークを握った。それで、とりあえず適当に素数を書き始めた。で、途中で飽きたら円周率を知っている所まで羅列してみた。

 美術部だと先に明かしてしまったため、少々意外に思うかもしれないが、僕はバリバリの理系だったりする。

 まあ、だからどうだって話なんだけど。


 素数、円周率と来て、次に何を描こうかと思った。一瞬、春子の絵でも描こうかと思ったけれど、彼女本人が教室に来るのでそれは躊躇われた。

 結局、所在なげに宙を彷徨さまよったチョークは、黒板に着地した。それで、あてもなく直線を書き続けることにした。とはいえ、今使っているチョークはひどく短くなっていたので、近くにあった赤いものを取り替えた。

 カッ、カッ、カッ! という音と伴に、太い線が一本できる。僕はその生成される過程をぼんやりと眺めながら、彼女が来るのを待った。


   ●


 教室を開けたら、夏男が黒板にチョークで何かを書いていた。横からチラッと見ただけなのだけれど、彼の瞳はどこかうつろで、正直近づきたくはない雰囲気だった。黒板に描かれている赤い線の意味もいまいち分からない。

 もう帰ってしまおうかな?

 と頭の中で悪魔が囁いた。


 鈍感ではない私は、彼がどういう理由で呼び出したのか。これからここで何が起るのかを完璧に理解していた。昨日、卒業式の後に教室で待っていると言われた時にはもう、告白されるのだなあと直感した。

 だから、頭の中でシュミレーションした。

 醜態をさらしてはならないと思い、私は何度も何度も彼を振る練習をした。想像しただけで嗚咽が出てきた時は、自分でも驚いたのだけど、回数を重ねるごとに無表情で振ることができるまでになった。おかげで昨日は一睡もできなかったけれど。

 涙が出なくなることを自覚する度に、私は自分の中でなにかがすり切れていく感触を覚えた。

 依然として私の登場に気づくことなく、黒板に何かを書き込んでいく彼。心の中で観念のほぞを固めた私は声をかけた。


「こんにちは。さっきぶりだね」


 このタイミングで声をかけられるのは、予想外だったのだろうか、ビクッと肩をふるわせて彼は、おっかなびっくりこっちを向いた。それがおかしくて可愛らしくて、思わず微笑みが漏れる。

 しかし、この後のことを思うと一瞬にして暗鬱あんうつたる気持ちになった。


「そ、そうだな」

「で、話って言うのはなに?」


 

 声が震えないようにするので、精一杯だった。

 抑えろ。頼むから耐えてちょうだいと私は自分の身体に懇願した。振るにしても、できるだけ彼に後腐れ無く振らなければならない。

 そうじゃないと、きっと取り返しのつかないことになるから。

 そのことを私は分かっている。

 分かっているはずなのに、どうして私の心は彼のことを好きだと叫んでいるのだろう。

 決して口にすることはできない叫びが、私の中で積もっていく。行き先を失った言葉が、涙となって出ていこうとするのを私は何とか押さえつける。


 私は彼のもとにはいられない。だから、彼の好意に応えることができない。

 彼は重い口を開けた。


「君のことがずっと昔から好きでした。よろしければ、付き合ってください!」


 はい。喜んで! という言葉を必死に呑み込んだ。深呼吸をしながら練習していた言葉を口にする。予定では、かなりの長文になるはずだったけれど、私の口から出たのはたった一言だった。


   ○


「ごめんなさい」


 それが、僕の告白に対する彼女の答だった。


「え、あ、なんで……?」


 九割方失敗すると分かっていたはずなのに、そんな言葉が出てくるとは。僕は自分が酷く情けないものに見えて仕方がなかった。そんなことを聞いても意味なんて無いというのに。


「私ね、実は今度海外に行くの」

「え、かいがいって、どのカイガイ?」


 頭が『かいがい』という文字を正しく認識できない。それが最後の砦であると言わんばかりに、すっとぼけていた。付き合いの長い春子のことだ。僕の仕草からそのことが分かったのだろう、話を続けた。

 どこの国で、なんという大学に通うのだとか。そういうことを聞かされたけれど、僕は右から左に聞き流した。否、聞き流すことしかできなかったのだ。

 かいがいを海外と噛み砕いたところで、僕は震えながらも声を出した。


「で、でも、それだけなんだろう? そ、それだけなら、どうにだってなるだろ? お金を貯めて僕が会いに行けばいいんだ。そ、それこそ、大学生になったらバイトだってできるんだ。年に数回会うぐらい、どうってことないよ。それに、それに――」

 

 頭の中にはただただ空白が存在するだけで、自分が何を言っているのかすら分からない。きっと、無責任なことをいっているのだろうとは思うのだが、どうしても言葉を止められなかった。

 手で水を掬ったときのように、絶えず絶えず言葉が漏れだしていった。

 でも、それだって終わりが来る。


「――それとも、僕のこと嫌い?」


 自分の台詞がそう締めくくられたというのが辛うじて分かった。

 なんて当たり前のことを聞くのだと思う。嫌いだから、もしくは恋人として好きではないから付き合えないというのは分かりきっているはずだろう? なのに、どうしてこんなことを聞く? ただただ彼女の罪悪感を煽るばかりではないか。


「……ごめんなさい」


 彼女はそれだけしか言わなかった。その言葉を何度も何度も繰り返して、それから、逃げ出すようにして教室を出て行く。振り返った拍子に、近くの机に衝突してしまったらしく、脇腹を押さえながら出ていった。

 喉がはりついて声も出せない中、糸の切れたマリオネットのように僕は床に座り込んだ。


   ●


「……エホッ! ゴホッ! ……ッ。オエッ!」


 教室を出た私は、急いで近くのトイレに駆け込んだ。個室に入って、鍵を閉めて嗚咽をまき散らした。

 私が夏男のことを嫌いか? そんなの大好きに決まっていた。抱きついてギュッとして体温を感じて安心したいし、できるなら、キスだってしてしまいたい。というか、話せるだけで自然と頬が緩む、そのくらい彼のことが好きだ。

 海外まで行ってやると彼が言ってくれた瞬間なんて、嬉しさのあまり意識が飛びかけた。『僕のこと嫌い?』と彼が言わなかったら、私はあのまま妄想の世界に沈んでいただろう。


 一通り、呼吸が正常にできるようになったところで、不安になる。

 とりあえず、『ごめんなさい』と言いまくって誤魔化してきたけれど、嘘を吐いていることが気づかれてはないだろうか? 嫌いじゃないってバレていないだろうか?

 自分自身に大丈夫だと言い聞かせる。


 それからいくら時間が経って、私はトイレから出ようとして急に怖くなった。

 もし、今出たら彼と鉢合わせになるんじゃないか。そう思うと、どうしても出ることができない。

 この腫れ上がった目元を見られたら、彼はどう思うだろうか? きっと、事の真相に辿り着くに違いない。確信するに至らなくても、何となく分かりはするだろう。

 それは、私が最も恐れることであった。

 ここで、変に希望を持たせてしまうと彼はきっと私を追いかけてくるだろう。そうじゃなくても、帰国するのを待ち続けるだろう。

そうなると、彼はこれからの数年間を無駄に過ごしてしまうことになる。良い人と巡り会えたとしても、その持ち前の優しさでその人と距離を置くかもしれない。私のとっては都合のいいことかもしれないけれど、そんなのは嫌だった。

 私が彼の行動を制限するなんて事、あり得ていいはずがなかった。


 だから私は再び、トイレの中に引きこもった。

 こうしていれば、彼とは決して出会わないだろう。そう思い、一瞬だけまぶたを閉じた。一瞬。そう、ほんの一瞬のつもりだった。でも、ここまでの蓄積していた疲労感が私を眠りの世界へ誘ってしまった。


 意識が落ちる瞬間、ブラックアウトする視界の中で、とても幸せな私達の夢を見たような気がした。


   ○


 忘れ物をしていたと気がついたのは、学校から帰ってきてしばらくした頃だった。正確には忘れていた事なのだが。

 僕は素数と円周率、それから赤い線でぐちゃぐちゃになった黒板を消してくるのを忘れていたのだ。

 それぐらい、放っておいても問題なさそうだけれど、今は二月。後期試験を控えた同級生は明日も登校するだろう。そう思うと、あのまま置いておくのは何だか嫌だった。万が一にも、今日のことが露呈することはないだろうが、それでも、億が一の確率を思うと平気ではいられなかった。


 そういうわけで僕は夜中の校内に侵入した。時刻は八時であったが、学校自体が午前中で終わったためか、誰一人残っている者はいなかった。

 正面からどうどうと侵入しては、赤外線のセンサーに引っかかって通報されてしまう。そのため、一階にあるトイレから僕は侵入した。そこは、あつらえたかのように、窓が割られており僕でも普通に侵入ができるのだ。

 コンクールまで日時がない時、美術部員の先輩方は、このように夜中の学校に忍び込んでは作品を仕上げていたらしい。その伝統(もしくは悪習)に僕は大いに感謝した。初めて、美術部に入っていてよかったと思ったかもしれない。


 雪は止んでいるとはいえ、暖房も何も付いていない学校は外にいるのと変わらない。まさか電気をつけるわけにもいかないので、スマホの光を頼りに僕は教室に向かった。


 黒板には、昼間と同様に数字と線がぐちゃぐちゃと踊っていた。僕はそれら全てを消し去るべく黒板消しを握った。

 文字が粉となってぱらぱらと落ちていく。数字を全て消し終え、残ったのは赤く太い線が一本だけとなった。ひと思いにそれを消そうと黒板消しを当てたが、どうしても下ろせなかった。

 重力が反対方向に作用してしまったように、僕の腕は固まってしまった。

 ただ振り下ろすだけという簡単な行動がどうしてできないのか、甚だ疑問だった。しかし、現にこうしてできないのだから、仕方がないと割り切って僕は黒板消しをチョークに持ち替えた。


 ふと気がついた時、その時にはもうすでに春子のイラストが完成していた。何年も彼女を描いてきたためか、無意識であったも彼女を描けてしまったらしい。

 こんなことをして恥ずかしい。と思いながらも、どうせならと彼女に対する思いの丈を書きつづった。まるで恥の上に恥を塗り重ねるような所業であったけれど、後で消すのだからと思えば吹っ切れてしまった。

 ごちゃごちゃと様々なことを書いた。春子のどこがどういう風に好きだとか、一緒にどこに行きたかっただとか、そんなとりとめも無いことを延々書き続けた。最後に、ずっと一緒にいたい、と書いた時には、再び黒板はぐちゃぐちゃになっていた。


 思いの丈を吐き出し、スッキリした僕は次いで黒板を真っさらな状態にしようと思って、でも、そういう気分にはなれなかった。赤い線の時と同じく僕の身体が言うことを聞かなかった。

 気分を変えようと、窓の外に光を向けると、先程まで止んでいたはずの雪が降り出していた。目の前のこれをなんとかしなくてはという思いとは裏腹に、雪が降ってきたからと誰にいうでもなく言い訳しながら、僕は帰宅した。


 明日、誰よりも早く学校に来てあれを消そう。そう、心の中で誓いながら。


   ●


 目を開けた時、私はぽわぽわと優しい温もりの中にいた気がした。でも、それはあくまで気がしただけだったらしく、次の瞬間には、トイレの冷たさに身を震わせていた。

 スマホを見てみると、午後九時と表示されていた。おまけに大量の不在着信も。

 いったいどれだけの時間寝ていたんだ、と苦笑いをしながら私は立ち上がった。

 トイレでやり過ごしたというよりは、寝過ごしてしまったといった方が正しいけれど、とにかく、これで夏男と出会う可能性はなくなった。そう思った瞬間、教室の方からガラガラガラという音がして、次いでタッタッタッと階段を走って降りていく足音がした。


 もしや、と思って私は教室に足を運んだ。


 教室に行くと、スマホの光に照らされた黒板の私と目が合った。


「ふふ、あははは」


 思わず笑ってしまう。

 こんなに綺麗に私を描けるのは、夏男の他に誰もいない。わざわざ夜の学校に侵入してまで、こんなものを描くだなんて本当に彼は面白いし、愛おしい。ギュッてして頭を撫でてあげたくなる。


 思えば、小学校の時から彼は私の絵ばかりを描いていた。授業中、休み時間問わず鉛筆を振っていた。

 最初は何を描いているんだろうと思っていたけれど、それがだんだん私なのだと気づくにつれて、何だか照れくさい気分になった。彼には私はこんなにも綺麗に見えているんだと思うとどうしてだか頬が緩んだ。

 つまらない授業中は何とかポーカーフェイスを保てたけれど、休み時間はそうもいかなくて、恥ずかしい顔を見られないようにと机に突っ伏すことにした。

 もし私のこの恋に明確な始まりがあったとするならば、きっとあれこそがそうなのだろう。


 ふと、視界が歪んでいることに気がついた。どうしてだか分からなくて、目元を拭うと熱い雫が指に付いた。

 懐かしくて、愛おしい記憶なのにどうして涙がでるのか分からなかった。

 しばらくその絵を鑑賞していると、周りに文字が書いてあることに気がついた。ミミズが這ったような字は相変わらずで、ぱっと見ただけだと装飾か何かに見えてしまったのだ。

 そこに書いてあった言葉の意味が分かった瞬間、私はチョークを握っていた。


 私のどこがどういう風に好きだとか、一緒にどこに行きたかっただとか、そういうことが書いてある。そこに、『へー、そうなんだ』だとか『私も』だとか、そんな言葉を返していく。その度に涙が零れ、嗚咽が漏れた。

 最後に書いてあった『ずっと一緒にいたい』の一言に、崩れ落ちる。


 振っておいて今更、私も一緒にいたかったと思う自分に激しい嫌悪感を覚えながら、それでも、一緒にいたかったという思いは止められなかった。

 どこまでも甘い自分が嫌で、甘い自分のせいで彼が不幸になってしまうことはもっと嫌だった。

 だから、どうすればいいのか自分に問いただした。そして一つの解答をはじき出した。


 まず、黒板に書いた私の文字を全て消した。決して泣いてしまわぬよう、唇を噛みしめながら消しきる。

 途中で、誤ってもともとあった赤い線を半分消してしまった。でも、それを修正してはならないと思い、そのまま放置して『ごめんなさい』と書いた。さらにもう一つ彼に贈る言葉を書いた。


 彼ならきっとこう答えるだろうと予想した上で、私はその質問を投げかけることにした。こうすれば、彼は諦めるしかないと思ってくれるはずだ。

 降り積もり始めた雪は、私達の仲を白紙に染め上げていくように思えた。そして、これが全て融けた時、彼の横に居るのは私ではない。


 でも、それでよかった。それが一番正しい選択だと思った。


  ○


 誰もいない早朝の教室。そこに僕はいた。

 昨日と変わらず、動いていないと震えてしまうほど気温は低かったが、それは今日が快晴であるからだ。放射冷却のために、こうも寒いのだ。

 一晩空けて春子のイラストを見た僕は、その光景のおかしさに思わず笑ってしまった。さっさと消してしまおうと、黒板消しを取ったはいいが、どうしても最後の踏ん切りが付かない。


 だから、そこからしばらく絵を見ていたのだけど、一つ変わっていた所があった。『ずっと一緒にいたい』という呟きに、返事があったのだ。

 疑うまでもなく、春子なのだろうが、あの後どうやって返事を返したのか分からない。しかし、そんなことは今どうでもよかった。

 『ごめんなさい』という一文字が見えたのだから。

 ああ、やっぱりダメだったんだと僕は思った。自分でも驚くほど冷静に受け止めることができたのは、やはり昨日一度振られているからだろう。

 それからもう一文あることに気がついて、それに目を通した。僕に向けた言葉なのだろうが、別れの言葉というよりは質問といった方が正しい。


 いったいどんな意図があるというのだろうと、黒板の文字とイラストを消しながら考えた。赤い線だけは何度こすっても、痕跡が残り続けた。でも、何度も何度も繰り返している内に、チョークの残る量が少なくなっていき、あと一回で消えるところまで来て、僕は質問に答えた。


「そりゃ、水に決まっているよ」


 そう言ったのと、黒板が綺麗になったのは同時だった。少し遅れて、僕はようやく彼女がその言葉を残した意味を理解した。

 立っている気力を失って、思わず教壇の上に座り込んだ。

 歪んだ視界が窓の外を映した。これ以上ないほど青くて、春がもうもう到来するのだと予感させられる空だ。そこには一機の飛行機が空を飛んでいた。


 『雪が融けると何になる?』黒板にはそう書いてあったのだ。


 陽が高くなるにつれて、雪が徐々にとけていく。それは冬が終わる一つの象徴なのだと思う。そして、僕のもとには何も残らない。春子を選べなかった僕のもとには。


 目から出てきた水が頬を伝った。

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