「世界で一番あなたがきらい」
優しそうなタイトルとは裏腹に緊張感のあるシリアスなストーリー展開にハラハラしっぱなしでした。
詳しい作品紹介は置いておいて、感想をつらつら書いて行きたいと思います。
亡国出身の男装騎士フェンと第二王子のアッシュ。
互いに複雑な立場にいながら、信頼関係を築いて行く中、自身の立場や信念が2人の関係の焦れったさを引き立てていて、最後は色んな意味で「終わった。終わってよかった。終わってよかった」と安堵しました。
ボリュームは大きめですが、そんなボリュームも気にならなくなるほど、読者の心を鷲づかみするストーリーと1人1人のキャラが立っていて、スラスラ読めました。
焦れったい恋愛や、ファンタジー、王宮での陰謀など好きな方にオススメのお話です。
世界で一番、あなたのことが嫌いでした。
ある日、火の国ではある布告がされた。
連続不審火。それを解決した王位継承者に、次期王位を確約する。
現在、王位継承権を持つ者は、第一王太子のユリアスと、第二王太子のアッシュ。美麗と名高き騎士のフェンは、迷わずにアッシュを支持する。
人徳の薄い彼に付き従うものは少ない。それ故に、彼に貢献できれば多大な恩恵に預かることができるという打算に基づいてというものだった。
だが、当のアッシュは、王位にこだわらず、傲然たる立ち振る舞い。
それに呆れながらも、フェンは彼をけしかけるようにして、連続不審火の調査に乗り出す。
その道中、明らかになるフェンの出自、不審火に関わる不可思議な存在――それを通じ、フェンとアッシュは気持ちをすれ違わせながらも、徐々に気持ちを通じ合わせていく。
だが、その連続不審火に見え隠れする邪悪な意思。それに突き動かされるように、悪意の波が広がり――やがて、国家を揺るがす陰謀に繋がっていた。
それに対して、フェンとアッシュは、別々の決断を強いられる。
はたして、二人の運命はどう転がるのか。
気持ちがぶつかり合いながら、優しく紡がれる物語の流れ。それに散りばめられた周到な伏線。些細な出来事が、繋がり続けて大きな流れに変わっていく。
二人の気持ちと、運命の流れ。相容れない中で、二人は足掻き、もがく。
それを助ける二人の周りの人々は、二人の気持ちと生きざまに影響され、その運命の流れに自発的に身を投じていく。
複数のやさしい気持ちがぶつかり合い、運命を切り拓いていく――。
やさしい、愛のファンタジー。
申し訳ありません!ひとこと紹介の無粋な一言、作中には一切出ません! 重ねて言いますが、この小説に対する読者(自分)の声です!
素敵に魅力を伝えるレビューが多く、どうレビューを書こうか悩みましたが、もう個人的に思ったことを、書こうかと思います。
ジャンル「恋愛」と言うには、バトル、不穏な事件、神秘の力、と贅沢な内容が収まり切らず。
ジャンル「異世界ファンタジー」と言うには、物語の超重要な恋愛要素が見えなくて、ぼやっとした印象になる。
てんこ盛りの内容で、どうにも一言で魅力を言い表しにくいから、「恋愛小説は苦手だな」とか「男装ヒロインとか興味ないな」で読まずに損をする人もいると思います。
だから、あらゆる人達に薦めたい!
自分も、ふらっとたまたま読んだだけだから、運が良かった。少年漫画的な熱さが楽しかったからフォローして、それ以降は「エンタメだ!」とテンション上がったり、先が気になったり、終わるのが惜しいなぁ、なんて思ったり。
読み終わると、「こんな小説をつくりたいなぁ」とも思いました。
読みやすくする工夫や、最後に向けてすべての情報を回収し切ろうとする展開、盛り上がる演出をこれでもか!
あー、良かったなー。オススメです。
『世界で一番あなたがきらい』そのタイトルに、恐らく興味を引かれる方は多いはず。
舞台は火の国。
主人公は宮廷の婦女子のあこがれの的の麗しの銀の騎士。
乙女のあこがれの騎士でありながらも、あまり自覚もなく天然で真っすぐな気性のフェンは、滅ぼされた水の国の生き残りとして、意図をもって火の国の第二王太子アッシュに従うことを決めます。
フェンは、強い騎士のはずなのに、性根のやさしさと背後に渦巻く陰謀にどこか縁遠いせいか、ハラハラさせられます。
何よりも序盤から、『嫌い』になるまでの彼との関係が荒々しく心配になるほど。
けれど、その『嫌い』な彼から向けられる不器用な優しさに、今度は読者として、もどかしくもどこかほっとさせられます。
フェンの隠された過去と痛み、王子の過去と痛み、周囲の人の正義と勝手な思い。フェンにのしかかる重圧を心配しながらも、登場人物すべてにドラマがあるため、それらの正義に思いを馳せながら、結末はどうくるのか、ドキドキし通しです。
随所随所にちりばめられた、過去の種明かしにどんでん返しの展開、あっと思わされて、やられた!と思うこともしばし。
それでも根底にあるのは、美しい望郷の風景。帰れない場所、でも心のどこかにある懐かしい風景。そんなのを思い浮かべながら、穏やかな読了感に浸れるお話です。
フェンとアッシュが二人手を取って、故郷の地を訪ねる風景を思い浮かべながら……。
勝戦国の王太子アッシュと、亡国の王女フェン。
決して相容れないふたりですが、フェンが報奨金に目がくらんだことによって、とある事件を共に解決することになります。
ぶつかり合い、認めあっていくふたり――。
けれど、彼らは敵対する者同士のはずで……。
ふたりの恋愛が魅力的であることは勿論ですが、「事件」に関して張り巡らされた伏線が実に素晴らしいです。
あ、あそこで出てきた少女の背景はこういうことだったのか。あの村での出来事は、こう繋がっていたのか。――などと、謎が解けていくさまは、とても興奮します。
そして、この素晴らしい物語をそっと密やかに、けれど美しく彩っているのが、彼らの後ろに広がる風景です。
フェンが悲しいときには、空も泣きます。
身を切るような雪も吹き付けます。
淋しげに置かれた遊技盤が、無言で語ってきます。
何ひとつ無駄なことなく、すべての言葉が、この物語世界を息づかせています。
しっかりと組み上げられた世界で繰り広げられる、切ないラブストーリー。
現在、クライマックスです。
この先どうなるのか。手に汗握る展開です!
みんなの上に立つ者としての自分。ひとりの人間としての自分。
ひとは誰しもしがらみにとらわれて生きるものですが、王族である二人にとってはそれがとりわけ重い。
敵対するふたつの国、水の国の王女であるフェンと、火の国の王子であるアッシュ。
二人の恋はある意味ロミオとジュリエットで、本人たちは自分たちは結ばれてはいけないのだということを分かっている。
でもどうしても惹かれていく。人間だから。個人としては、互いを深く愛しているのです。
二人は協力し合って国内の難事件を解決していきます。
最初は金のためだった付き合いも、いつしかきずなとなり、愛となります。
しかしその数々の事件も、すべてが水の国と火の国の対立に収束していく。
その一線の上に立った時、二人は王族としての責務を果たすために生きることを選びました。
責任感が強すぎる。すべてを放り出して手と手を取り合って駆け落ちしてほしい!――と無責任な読者は思ってしまいますが、それをしない二人だと分かっているから好きなんだよな~!
二人がふたたび一緒にいられる日が来ることを待ちわびつつ、続きも楽しみにしています。
(第4章最終話、42話まで拝読した段階でのレビューです)