本を買えない、借りられないわたしにとっての至福

『物語の冒頭でいかに読者を引き込み読み続けていただくか』ということを勉強させていただく意味で、「第一章 オンエア①」まで拝読した時点でのレビューです。
セリフが少ない書き出しですけれども、「サバンナの風」という単語がぱっと目につくような文章の配置がなされており、興味を惹かれました。仮に冒頭から順を追わずスマホの画面を何気なくスクロールしていたとしてもこの単語に引っかかってまた冒頭に戻ってこの物語を読み続けようという動機付けとなるでしょう。そして、短い場面の中でキャラたちを本当に自然な形で紹介し、心理面での関係性まで描写されており素晴らしいと感じました。わたし自身が市民ランナーですので余計に興味を持った点もあります。
ただ、交響曲のすべてが序曲から一番キャッチーなフレーズが出てくる作品ばかりではないのと同様にこの小説の序章も静かで丁寧なスタートです。
私事で恐縮なのですけれども、わたしはある事情から本を買ったり図書館で借りたりすることができません。触れることができるのはネット小説だけですので、物語の冒頭でいかに爆発的に読者を引き込むかということの切実さを感じています。
この作品は小説冒頭の静けさと深さをも楽しむことのできる方に丁寧にお読みいただきたい作品です。そして、プロの作家の本に触れることのできないわたしが得たこの幸福な機会に感謝して丁寧に読み進めさせていただきたいと思います。

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