『最高の密室』建築を依頼する老人と、アラサー建築士の頭脳バトル!

南雲 千歳(なぐも ちとせ)と申します。
僭越ながら、レビューを書かせて頂きます。

この中編作品は、アラウンドサーティの建築士、半間 樹(はんま いつき)とそのワトスン役のヒロインである三宮 環奈(みつみや かんな)の元へ、『最高の密室』を求める資産家の老人、瀧川が『最高の密室』の建築を求めて訪れるシーンから始まります。

密室トリックと言えば、推理小説における謎の種類の一つ、ハウダニット(How(had)done it?)、即ち、「それをどうやった?」と言う読者への出題の代表格ですが、この中編で展開されるのは、その辺のドラマなどで良くある様な、単なる密室トリックではありません。
何と、探偵役である半間 樹が、依頼者の為に密室を作ると言う作品なのです。

通常、推理作品と言うのは、探偵が依頼者の代わりに謎を解いてくれるのが普通なのですが、探偵役である主人公がトリックを作り、依頼人がその探偵をすると言う型破りな構成に、私はまず驚かされました。

解答編にて、詳細はネタバレになるので書けませんが、滝川老人は半間の作り上げた密室が見抜けず、結果、見事にそのトリックに騙されて仕舞います。

同種のトリックは奈須きのこ・著の『空の境界』の矛盾螺旋などにも存在しますが、半間のトリックはその偽装が主に心理面に置かれており、その見事さは類を見ません。
方位磁針の類では発見出来ず、容易に見抜け無い種類のトリックなのです。

推理小説において、多くの謎は人間が解明するのですから、人間の心理を突いた半間の作戦が奏功したと言えるでしょう。

建築士 半間 樹の作り上げた密室とは、果たして如何なるものなのか──?

皆さまは是非この作品をお読みになり、新鋭な密室トリックの妙味を味わっては如何でしょうか。

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