見て触れて、感じられるものだけが本物よ。と誰かが言った。

『電脳コイル』でヤサコの母親が言った台詞。だったと思う。
デジタルネイティブの僕は「メガネあそびはもうおしまい」と諭すこの母親の台詞が許せなかった。デンスケには触れられないがあいつはやっぱり本物だ。

メンガーのスポンジはそういう気持ちを救ってくれる象徴になるだろうか。あるいは2次元と3次元の壁を壊す技術になりうるだろうか。
僕はどうしても、メンガーのスポンジのことを考えると絶望的な気分になる。
2次元と3次元の間には無限の隔たりがあるように思えてくるのだ。

メンガーのスポンジは自己相似形の、穴の空いたスポンジだ。
メンガーのスポンジは立方体の形を取るために自らを三次元だと主張する。しかしそこに開いた無限の穴はその体積を限りなく0に近づけており、スポンジの穴はスポンジが2次元だと言いはる。
メンガーのスポンジはその無限の穴によって2次元でもなく3次元でもない。しかし逆に言えば、その無限の穴のせいで2次元になることも3次元になることもできない。
こうして考えるとメンガーのスポンジそれ自体が、2次元と3次元の間の無限の隔たりの象徴のように思えてくるのだ。

彼にもそのように見えたのだろうか。そうでないことを願うばかりだ。

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