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僕の言葉を受けて、帰ろうとトボトボ歩いていた紺野さんの動きがピタリとフリーズする。
あれ?僕、今、なんて言ったっけ?
オナラが嫌じゃなかった。そんなことを口走ったような気がする。その後に、何か一言添えてしまったような気も。
「・・・私のこと、好きになったって。」
僕が自分の口から出た言葉について考えていると、フリーズしていた紺野さんが一言、呟いた。
紺野さんのことを好きになった。あ、そうだ。そんなことも口走ったような。
・・・いや、ちょっと待って。まずいまずい。
好きって言っちゃた。やばい、どうしよう。
確かにオナラの一件で僕は紺野さんのことがますます好きになったけれど、だからといって、好きなんて言うつもりはなかったのに。
完全に告白してるじゃん。でも、今さらなかったことにはできないし。
すっかり混乱している僕に、紺野さんは振り返り。
「お、オナラで・・・?」
顔を真っ赤にしてポツリと言った。
いや、違う。9割違うんだけど。
「う、うん。」
僕はコクリと頷く。
だって、夏休みが始まった頃には実は好きでした、なんて言えないし。ずっと横顔を見てましたなんて、ストーカーっぽくて引かれかねないし。オナラでっていうのも変態っぽいけど、ストーカーよりはマシなように思えたから。
「・・・・・・。」
僕の言葉に俯いて、何かを考えている様子の紺野さん。
何を考えているんだろう?お断りの言葉かな?ああ、だったら嫌だなあ。でもまあオナラで好きってどう考えても変態だし、断るよね、普通。ああ、前から好きでしたって言った方が良かったのかも。
ザーッという雨の音のみが聞こえる店内で、僕は紺野さんの挙動を窺う。
そういえば、紺野さんは傘を持ってきてないみたいだけれど、大丈夫なのかな?
無理矢理に意識をそんなところに向けてみるものの、火照った顔がどうにもならない。
自分の動悸が早くなっているのを感じる。顔が真っ赤になってしまっているのも。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ああ、怖い。告白ってこんなに怖いものだったのか。もう二度としない、絶対しない。
僕がそんな風に思っていると。
俯いたまま何かを考え込んでいた紺野さんが、何を思ったのか、自分のお腹をさすり出した。
かと思えばお腹を押し込んだりもしている。
一体、何をしているんだろう?
というか、紺野さんって実は奇行が多いんだよね。まあ、そこも可愛い気もするけれど。
そして、紺野さんがお腹をもみもみしている姿を眺めること、十数分。
告白した事実を忘れ始めた僕の方に、紺野さんが俯いたまま、トコトコと歩み寄ってきた。
座っている僕の目の前で立ち止まり、背を向けてもじもじする紺野さん。
何か嫌な予感がする。
「は、恥ずかしい、けど。」
そんな一言を呟き、相変わらずお腹をもみもみしていた手をそのままに、僕の鼻先にお尻を持ってきた。
ふわりと香る、紺野さんのいい匂い。
あ、でも。これ、まずい。
僕が今から何が起こるのか理解した瞬間。
『ボッスゥゥゥゥゥ。』
紺野さんがお尻から、危険なフレーバーが放射されたのだった。
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