エピローグ

 目を開くと白い天井が目に入った。

 どうやら病院のベッドの上らしい。


「……お、お父さん、沙耶が、沙耶が目を覚ましたよ」


 叔母さんが涙で顔をぐちゃぐちゃにして、震えた声で叔父さんに呼びかける


「おお、よし!すぐに先生を呼んでくる!」


 叔父さんは走って病室から飛び出して行った。


「お、おば、叔母さん?」


「そうよ。全く、本当に心配したんだから!飛び降りなんてバカな事して!本当に……」


 私の手を力強く握る叔母さん。

 どれだけ私を心配していたのかよくわかった。

 目頭が熱くなって涙が溢れてくる。


「ごめん、ごめんなさい……」


 そうしていると、叔父さんが私の担当医と共に病室に入ってきた。


「沙耶さん、少し手足を動かしてもらえますか?」


 私は涙を拭い、担当医の言う通り手足を曲げたり伸ばしたりを数回繰り返した。


「……なんとも信じがたい。障害が確実に残ると考えていたのですが、これは奇跡だ」


「それじゃあ先生……」


「リハビリをしっかりすれば間違いなく、普通の生活ができるようになりますよ!」


 叔父さんも叔母さんも私も、とにかくその日は泣いていた。



 夜になり、眠りにつくと私は夢を見た。


「やあ、生きる道を選んだお嬢ちゃん」


「影……」


「少し特例でお嬢ちゃんの夢の中に入り込ませてもらったよ。……全く意外だった。君がまさか生きたいと言うとはね。てっきりそのまま死ぬ事を選ぶかと思ったのに」


「……そうしようとは思った。だけど、なんでか生きてみようと思ったの。実際、それで良かったと思えてる」


「そうかい。それは良かった。……さて、そろそろ時間か。お嬢ちゃん、もう次はこんなチャンスはないよ。いいかい?もう二度と自殺なんかするんじゃない。君が経験して見てきた世界は本来君が来る場所じゃあない。本当なら君はもう命はなかったのだから。だから生きられるだけ生きることだ。きみののこれからの人生に……」


「影!」


 叫んで起き上がると既に夜が開けていた。

 影は最後になんと言ったのだろう?

 昇る朝日に目が眩む。

 とても懐かしい感覚だった。




 半年後


 私は叔父さんの家に住む事となり、叔父さんの家近くの高校に転校した。まともに授業を受けていなかったので一年生からのスタートであったが、以前のようにいじめられる事もなく、とても充実した日々を過ごしている。

 父と母はと言うと、私へと暴力、精神的苦痛を与えていたという事で逮捕され現在裁判の途中だと言う。

 死者の夢世界で体験した出来事は今でも頭の中に染みついている。恐らく、一生忘れる事はないだろう。


「おーい沙耶ー!早く早く!学校遅れるよー!」


 遠くから手を振って私を呼ぶ吹雪ちゃんが見える。


「今行く!」


 私は生きている。この世界で生きている。

 そして、これから先も生きていく。

 しっかり生きて、歳をとって生を全うしよう。

 きっとその先にあるのは素晴らしい世界だろうから。

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死者の夢世界 ひぐらしゆうき @higurashiyuki

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