マギステルス・バッドトリップ

作者 鎌池和馬/電撃文庫

新感覚アクションRPG!! 鎌池和馬の送るクライム・ノベル

  • ★★★ Excellent!!!

『禁書目録』シリーズ、『ヘヴィーオブジェクト(HO)』シリーズなどで知らぬ人など居無い鎌池和馬先生の新作、『マギステルス・バッドトリップ』が、ついにこのカクヨムにて開始されました。

冒頭で、主人公であるトップ・プレイヤー、蘇芳(すおう)カナメがゲーム内世界へとログインし、ド派手なミントグリーンのクーペのシートに身を納めるシーンからして、既に圧倒的な作品です。

この部分は、各要素が実にスタイリッシュに洗練されており、更に『GTA(グランド・セフト・オート)』ライクな設定の数々が、これから始まるフル・ダイブ型オンライン・ゲームで起こる物語へのムードを一気に盛り上げています。

私見ですが、蘇芳カナメのログインしたサーバー名はアルファ・スカーレットと、頭にギリシャ文字で1番目に来るαが付いてますので、多分、第1サーバー内で小分けにされたワールドの1つなのでしょう。

こうしたフル・ダイブ型のVRを扱った作品としては、NHKがその昔に製作したアニメ作品の『恐竜惑星』や、ゲーム作品の『.hack』シリーズ、ライトノベルとしては『SAO(ソードアート・オンライン)』などがあります。

しかし、この作品『マギステルス・バッドトリップ』は、異世界転生物で良く描かれる様な、RPGに良くあるようなオーソドックスな中世ファンタジーや、恐竜が闊歩する太古の時代のテイストとは違った、近未来SFに仕上がっています。

著名な作品で最も近いのは、先に紹介したSAOの外伝的作品である、『キノの旅』で有名な時雨沢恵一・著の『GGO(ガンゲイル・オンライン)』でしょうか。

銃、格闘、そして車両を使ったアクション性の高さに、大きく期待が持てる作品です。

ひとまず、作品のご紹介はこれで十分かと存じますので、是非ともお読み頂くとして、続いて以下、大変マニアックな話をさせて頂きます。

私が個人的に注目したのは、序章で登場する武器です。
『ショートスピア』と名付けられた、ピストル用の45口径を用いる、短距離での対人殺傷を目的とした、極めて特殊な狙撃銃が登場します。

この辺りからして、実にアナーキーでアンタッチャブルなクライムのテイストに付いてピシッとエッジが立っており、著者である鎌池先生の意気込みがダイレクトに感じられます。

私見ですが、ここで言う『ショートスピア』の45口径と言うのは、マカロニ・ウェスタンな西部劇に出て来る様な、コルトSAA(シングル・アクション・アーミー)に使う45ロング・コルト弾では無いと思います。
ピストル弾は、ゴルゴ13の狙撃の様に、頭部に当てるヘッド・ショットで無い限り、1発でターゲットを仕留める様には設計されていませんので、連射が基本です。
なので、ここで言う45口径とは、コルト・ガバメントやHKのソーコム・ピストルなどのオートマチックに使われている、普通の45ACP弾と考えれば良いと思います(私なら、先端の尖ったボート・テイル型の300口径から50口径までのいずれかのサブソニック弾を使ったかもしれません)。

加えて、更に注目すべきは、作品中でゲーム内通貨として使われている『スノウ』と言う通貨単位です。

オンライン、オフラインを問わず、多くのゲーム作品では、その世界観を形作る要素の一つとして、様々な架空の通貨の単位が登場します。
それらの架空の通貨の単位は、分かり易さを優先して『ゴールド』や『ドル』と言った一般的なネーミングにしたり、或いは漢字の「銭」を茶化して『ゼニー』などとしたり、はたまた、漫画作品の『ワンピース』では、木の実をモチーフにした『ベリー』なども使われていますね。

とりわけ、この『マギステルス・バッドトリップ』のゲーム内で使われている『スノウ』と言う通貨単位は、それ自体が実にクライム・テイストな名称なのです。

と言うのも、クライム作品においてスノーと言えば、通常は雪の様に純白の粉、即ち、麻薬のコカイン類(特にクラック・コカイン)の事を指しますから、この辺りにも、作者である鎌池先生のこだわりが窺えます。

現実の世界において、ゲリラなどの活動地域では、価値変動の激しい国家の通貨に代わり、アヘンやコカイン、ヘロインなどの麻薬が実際に通貨として流通していますので、それが所持金や銀行の口座残高などで表示される通貨単位の名称として用いられているのは、GTAライクなゲーム世界の設定を色濃く反映したものと言えるでしょう。

ドラッグなどを扱う裏社会に興味のある方は、角川文庫から出版されている楡周平・著の『Cの福音』シリーズなどをお読みになって下さればと思います。
特に、『クーデター』は、私がまだ大人では無かった時代の愛読書でしたので、お勧めです。

真保裕一・著の『ホワイトアウト』も圧巻でしたが。

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