いつか世界が終わるなら、こんなにも星の瞬く夜に
糾縄カフク
A Story of Starry Night
実を言うと地球はもうだめです。突然こんなこと言ってごめんね。
――でも本当です。
二、三日後にものすごく
赤い朝焼けがあります。
それが終わりの合図です。
程なく大きめの地震が来るので、気をつけて。
それがやんだら、少しだけ間をおいて
――終わりがきます。
北海道を舞台にした漫画の一節。ふとそんな事を思い出しながら、僕は空を見上げる。数年前にコピペで流行ったのが、いやに懐かしい。
スマートフォンが示す時刻は、夜の九時。節電のため通知機能をオフにし、画面の明度をギリギリまで下げはしたが、日をまたぐまでは保たないだろう。
地上の星が一斉に消えたのが、今日の明け方。
一部停電はともかくとして、北海道全土の明かりが消えたのは、戦後初めての事らしい。
険しい坂を登る息が、疲れより興奮で荒くなる。
きっと次にこんな景色を見ることがあるとすれば、それはたぶん、世界の終わる前夜だとかに違いない。
iPodから流れるBUMP OF CHICKENの、天体観測が鼓動に重なる。
望遠鏡はいらない。台風はもう去った。生憎と彼女の手は無いけれど、ここには。
――見えないものが、見える。
人の作り出した数多の明かりが、見えなくさせていた空の光。
揚々と不謹慎を踏みしだく。
高鳴る胸の
もうちょっと先に、展望台がある。
ちょうどあの漫画の舞台となった、そこは。そこからは。
――イヤホンを外す。
刹那、音が消える。
四角く切り取られた小窓から。
そして窓の外にある全ての景色に。
満天の、星が。
空一杯の星が、瞬いている。
きっと、むかしむかしを生きた沢山の語り部が、羊飼いが、歌い手が。
それぞれの星に物語を与え、空想し、思いを馳せた、そのように。
それは文字通り、
織姫と彦星を隔てる天の川が、こんなにも鮮明に見える。――今ならばきっと、すぐにでも二人が出会えるようにと、煌めいて、輝いて。
カメラのシャッターを押す手すら忘れて、僕は世界の中心に佇む。
間違いなく、その一瞬、ここは、世界の中心だった。
だいぶの時が経って、いや或いは、僅かだけの時間を置いて。
周回遅れの現実が、一歩ずつ僕に近づいてくる。
遠くからサイレンが聞こえて。
腰にぶら下げたラジオが、ざらついた災害情報を口ずさむ。
秋の虫がささやかに合唱を始め。
静謐に満ちた空間は、僕の知るいつもの、ただ明るさだけが逆さまになった風景に戻る。――ふと、なぜだか、涙が溢れた。
世界はいつか、終わるのだろうか。
終わるとしたら、どんなだろうか。
最後の朝焼けは綺麗だろうか。
終わりの夜は美しいだろうか。
誰もが終わりを信じぬ間に終わるだろうか。
こんな風に、感嘆に息を呑まれている間に。
或いは、スマートフォンを弄っている間に。
もしそうだとすれば。
終わりが訪れるなら。
避けようが無いなら。
それはこんな夜空の下が良い。
それはこんな静寂の中が良い。
いつか世界が終わるなら、
こんなにも星の瞬く夜に。
祈るように両手を広げて。
白い吐息が夜空に消えた。
いつか世界が終わるなら、こんなにも星の瞬く夜に 糾縄カフク @238undieu
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