属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?

フミヅキ

第1話 アンドロイドがやって来た!

 高宮瑛士はその日、独り暮らしの下宿先アパートで、午後の大学の授業に備えていつもどおり真面目に予習をしていた。


――ピンポーン


 唐突な呼び鈴に、瑛士は当初居留守を使おうとした。だが、再度の呼び鈴と共にドンドンとガサツに扉を叩く音、女の声がそれを許さなかった。


「電気が点いてますよ! いらっしゃるんでしょう? お話を聞いてください!」


 どうやら質の悪い売り込みか宗教勧誘らしい、なんと言って追い返すのが最も効率的か、と考えながら瑛士が扉を開けると、そこにいたのはピンク髪ツインテールとライトブルーの瞳の美少女だった。


「高宮瑛士さんですよね? こんにちは!」


 その美少女は、大学二年の瑛士より少し年下くらいだろう。一七〇センチの瑛士より頭一つ小さい背丈で、体のラインがよくわかるシャツとデニムのショートパンツとスニーカーという姿。にこにこの笑顔と相まって、元気で溌剌とした雰囲気の女の子だった。


「はじめまして! 自律思考・感情付加式可変型アンドロイド試作機七号と申します。正式名称は言いづらいと思うので、パーソナルネームのナナコとお呼びください!」


 瑛士は黙って扉を閉めた。だが、鍵をかける前にその美少女は怪力でもって扉をこじ開ける。


「少々お待ちを! 初見のナナコは怪しい不審者であることは重々承知しています。ですが、あなたにとって悪い話は決してしませんので、三分でいいです! どうか、お話を聞いてください。お願いします!」


 言葉だけ聞くと土下座せんばかりの勢いの割に、扉に片足を引っ掻けて閉められないようにする美少女は、歴戦の訪問販売員もかくやといった様子だ。

 その様をジッと見つめていた瑛士は、黙ってスマートフォンを取り出し、淡々と警察の番号を押した。


「待ってぇぇぇぇぇ! ポリスメンだけは勘弁してくださ~い! 警察沙汰になったら、ナナコがポンコツ認定されて、研究所のドクター達に処分されちゃいますぅぅぅぅ!」


 美少女は瑛士の手から、ベテランの掏りのような手際でスマートフォンを奪い取り、通話画面を消す。瑛士は不審というよりは呆れた目で美少女を見つめた。


「君はいったい何が目的なんだ?」

「ナナコは瑛士さんのお嫁さんとして認めてもらうためにここへ来ました!」


 朗らかに可愛らしく微笑むナナコに、瑛士はこれ以上ないくらい不信感満載の表情を浮かべる。だか、それでもナナコのにこにこな笑顔は崩れない。


「ということで、お邪魔しますねー! あ、ちゃんと急須がある! お茶お淹れしま~す」


 玄関で靴を脱いだ自称アンドロイド・ナナコは、プロバスケット選手のような身のこなしで瑛士の脇を通り抜け、勝手に台所を漁り始める。

 とりあえず、こんな貧乏アパートに独り暮らしの大学生へ押し込み強盗もあるまいと瑛士は判断し、渋々と自分も部屋に戻った。

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