第7話 アンドロイドもたまにはキレる!

「皆さん、こんにちは! 玄武大学の学生の岡本紗菜です! 今日からのお神輿作り、一緒に頑張りましょうね!」


 玄武大学十二号館の作業室には十人ほどの子供達が集まっていた。このワークショップ参加者は子供神輿の担ぎ手にもなることから男子が多いが、女子も一人参加している。


 しかし、まだみんな少し緊張しているのか、紗菜の挨拶にも反応が小さい。

 その様子に、今日も量産型女子大生形態のナナコは不満げな表情で一歩前に出た。


「ちょっとちょっと~! 元気が足らないですよ、キッズ達~! 紗菜お姉ちゃんにちゃんと『こんにちは』のご挨拶しましょうね、せ~の!」

『こ、こんにちはー……』

「まだまだ小さいですよー! せ~の!」

『こんにちはー』

「もっと~」

『こんにちは~!』

「よくできました~!」


 元気よくなってきた子供達に、ナナコと紗菜は嬉しそうに微笑む。


「ナナコお姉ちゃんも、紗菜お姉ちゃんと同じく玄武大学の学生なんですよぉ。そこの瑛士お兄ちゃんも! 瑛士お兄ちゃんはちょっと冷たそうに見えますが、本当はと~っても優しいので、皆さん何かあったら頼ってくださいね!」


 瑛士は「君は玄武大生ではないだろう」と言いたかったが、子供達の手前、黙って頷いた。


「それではここで、スペシャルゲストをお呼びします。玄武大学のヒーロー、ゲンブレインです!」


 紗菜の呼び出しに、ガラッと勢いよく作業場の扉が開き、青のメタリックなヒーローと、黄色のメタリックな犬が室内に躍り出る。


「やあ、みんな! 私達は――子供達の笑顔と玄武大学の平和を守る! 特救戦士ゲンブレイン、リーダー・ゲンブレイヴ、そして、サポートドッグ・ゲンブースターだ!」

「わふわふ!」


 ゲンブレインの一人と一匹がキレキレのポーズを決めた。


「うわ~! だっせー! きゃはは!」


 少年達はそうやって笑いつつも、キラキラした目はゲンブレインの姿に釘付けだった。それがわかるのか、ゲンブレインはいつも以上のキレと気合いで、ヒーローの構えやファイティングポーズをとる。

 ナナコはその様子をニコニコと見守った。


「うふふ! ゲンブレインにとっては初の大仕事ですもんねー」

「そんなことより、君は今日、大役を引き受けたんじゃなかったか?」

「ハッ! そうでしたぁ!」


 瑛士の指摘にナナコはいそいそと立ち上がり、子供達に向かって言う。


「今日からみんなでお神輿作りに取り組むわけですけどー、おっきな材料を組み立てたりー、工具を使ったりー……なので、今日は安全に作業するために必要なことを教えてくれる特別講師をお呼びしましたぁ! ナナコお姉ちゃんが今からお連れするので、ちょっと待っててくださいね~」


 そう言うと、ナナコは慌てて作業室を出ていった。

 それと入れ替わるように、今度は薄緑色の作業着に黄色のヘルメットを被った、恰幅のいい中年男性が入ってくる。


「どうも~。ナナコの知り合いの……えっとー……ナナハラのおっちゃんやで~。今日だけやねんけど、みんなが安全に作業できるよう、講師を務めさせてらうんで、よろしゅーな!」

「おっちゃん誰? ナナコお姉ちゃんは?」


 不思議そうな顔の子供達に、ナナハラのおっちゃんは、なぜか冷や汗をかきながら取り繕うように笑う。


「お、おっちゃんかー? おっちゃんはアレや。ナナコお姉ちゃんが前にバイトしとった工事現場の現場監督で、安全作業のプロや。ナナコお姉ちゃんは……その……どこ行ったんやろな? たぶん便所ちゃうかー? ナハハハ!」


 最後は大声で笑って誤魔化した「ナナハラのおっちゃん」とやらの姿に、瑛士は呆れ気味の溜め息をついた。


「それよか、今から子供神輿の計画書配るよってな、それ見てや」


 子供達はゲンブレイヴの配った図面と作業手順書にワクワクした表情で見入る。


「始める前にな、作業にどんな危険があるか、まずはみんなで予測してみようやないか!」


 ナナハラのおっちゃんの言う意味がイマイチ理解出来なかったのか、子供達は首を傾げた。おっちゃんは代わりに、紗菜に視線を向ける。


「紗菜お姉ちゃんはどないに考える?」

「そうね……刃物を使う作業があるから、怪我をするかも」

「なるほどなぁ。せやったら、その予防法は何やろな? そこのサッカーの服の男子!」

「え、僕? えーと……使わない時はちゃんとケースにしまうとか?」


 戸惑いながらも答えた少年に、ナナハラのおっちゃんは嬉しそうに笑いながら「それは大事なことや」と頷いた。


「今日の作業は神輿の土台の木材の組み立てやな。ここではどんな危険があるやろか?」

「はいはい! 木に指挟んでもげる! きゃはは!」


 慣れてきたらしい少年が冗談めかして笑いながら言った。だが、ナナハラのおっちゃんは怖い顔で怒鳴る。


「冗談やないぞ! ちょっとした油断で本当にもげるかもしれへんねんぞ!」

「はーい……ごめんなさい……」


 シュンとして小さくなった男の子には、紗菜が優しく声を掛けた。


「でも、そういう危険の可能性に気付けたのは素晴らしいわ。どうしたら防げるかしら?」

「うーんと、うーんと……声を掛け合って気を付ける!」

「大切ね。あとはどんな危険があるかしら?」

「重たそうな材料もあるから……滑って落としたら怪我するかも?」

「そういう時は私に任せろ!」


 ゲンブレイヴが胸を張って一歩前へ出た。


「重たい材料はこの私、ゲンブレイヴか、瑛士お兄ちゃんか、このナナハラさんに必ず支えてもらいながら作業するんだぞ!」


 子供達は揃って「はーい!」と応える。


「ほんじゃ、今からナナハラのおっちゃんが安全確認の指差呼称するからな、真似てやんねんぞ。でも、ただ真似るんやなくて、『ホンマに注意したるぞー』っちゅー気持ちでやらなアカンからな」


 ナナハラのおっちゃんは、左腕は曲げて腰にあて、右腕はビシッと伸ばして作業室の一角に積まれた木材を指差した。


「重たい材料は声を掛け合って取り扱い注意、ヨシッ!」

『重たい材料は声を掛け合って取り扱い注意、ヨシッ!』


 ナナハラのおっちゃんに続いて、子供達、紗菜、ゲンブレインが揃って指差しと共に安全唱和を叫んだ。瑛士も形ばかりではあるが、子供達の手前もあり行った。


「それじゃー、子供御輿作り、開始や~!」



 その日の子供神輿作りは、ナナハラのおっちゃんの指導が役にたったのかはわからないが、怪我もなく順調に進んでいた。ゲンブレイヴや瑛士が押さえた木材を、子供達が紗菜やナナコのフォローを受けながらトンカチで次々と釘打ちしていく。


「そーいえばさぁ、ナナハラのおっちゃん、どこいったんだろーな?」


 一人の少年が不思議そうに言うと、ナナコは顔を引き攣らせて慌て始める。


「ど、どこ行ったんでしょうねー? う、うふふ! ナナコ、ちょっと探して来まーす!」


 ナナコが作業室を出ていくと、入れ替わるようにナナハラのおっちゃんが戻ってきた。


「おー、ちゃんとやっとんか、キミら?」

「あ、ナナハラのおっちゃん! ナナコお姉ちゃんが今、探しに行ったんだよ。何してたんだよ~」

「おー、すまんすまん。ちょっと便所が詰まっとったんや。ナナコはそのうち帰ってくるやろ」


 そう言って「ナハハハ!」と誤魔化すように大声で笑うナナハラのおっちゃんの姿に、瑛士はいたたまれず、溜め息と共に視線を反らした。


 その視線の先に、瑛士は教室の隅でポツンと孤立している女の子を見つける。男子ばかりの参加者で、その少女はなかなか馴染めないようだ。

 瑛士は彼女に向かって手招きし、ここを釘で打ってみなさいという風にジェスチャーしてみる。だが、女の子はシャイなのか、トンカチを持ったまま、なかなか一歩踏み出せずにいた。


 瑛士は紗菜の肩を叩いて、その女の子を指差す。紗菜はハッとして、急いで女の子の元に駆けつけると、しゃがみ込んで視線を合わせながら微笑んだ。


「こんにちは。お名前……遥香ちゃん?」


 紗菜が名札を読み上げると、おさげの少女はこくんと頷く。


「お祭りが好きなの?」

「あの……玄武神社の、玄武丸の……お話を、ご本で読んで……それで……」

「まあ! それで興味を持って来てくれたのね!」


 再び遥香という少女が頷くと、紗菜の笑顔がパアッと輝いた。


「紗菜お姉ちゃんも遥香ちゃんと同じよ。わたしも玄武市の小学生でね、その時はお神輿作りなんてなかったんだけど、ここの大学の先生と郷土史研究会がね、子供向けに玄武丸の伝説や玄武市の歴史について特別な授業をしてくれるっていうから、小学生の時に来たのよ」

「ふうん……」

「それでね、その授業を受けてから、お姉ちゃん、大きくなったら、この大学で学びたい、出来れば、玄武市の歴史を研究したり展示したりする博物館で働きたいっていう夢が出来たの」

「そうなんだ……!」


 遥香の瞳が輝いたように見えた。


「今日はまだだけど、これから作るお神輿につける飾りなんかは、玄武丸を象徴するモチーフなのよ」


 それから紗菜の語る説明を、遥香は興味深そうに聞いていた。

 遥香の緊張が解けてきたと感じた紗菜は、少年達にとりなし、少年達も春香を受け入れ、遥香もみんなと仲良く子供神輿の土台作りに参加し始めた。それを見守ってから、紗菜が瑛士に頭を下げる。


「高宮くん、遥香ちゃんのこと、気付いて教えてくれて、ありがとう」


 瑛士は無言で「別に感謝はいらない」という風に首を横に振るった。


「ねえ、紗菜お姉ちゃん! こっちの釘が~!」

「あらあら、ひん曲がっちゃってる!」


 紗菜が別の子供の面倒を見に離れると、ナナハラのおっちゃんが瑛士の元にやって来た。


「ナナコ、瑛士さんが遥香ちゃんにあげた思いやりの百分の一のでももらえたら、飛び上がるくらい嬉しいのに……」


 おっちゃんのダミ声で言われ、瑛士はいつも以上に冷たい視線を向ける。


「キャラがブレてないか?」

「ハッ……!」


 ナナハラのおっちゃんは再びふてぶてしいオヤジの顔になって子供達の元へ戻っていった。瑛士はそれを見て、他人にはわからないくらい少しだけ表情を緩めて笑った。



 日も傾き始めた頃、一同は作業を終え、片付けも終了させた。


「よし! 計画通り、安全に今日の分の作業できたでー。拍手!」


 ナナハラのおっちゃんの合図で、みんなが拍手する。


「ナナハラのおっちゃんが来れるのは今日だけやけどな、次からも紗菜お姉ちゃん達と安全作業の方法をちゃーんと考えてから始めんねんぞ!」


 子供達は「はーい!」と大きく返事をした。しかし、そのうちの一人が不思議そうに首を傾げる。


「ところで、ナナコお姉ちゃんはー?」

「またトイレかな?」

「そうね。大丈夫かしら?」

「そういえば、私達とナナハラさんが顔合わせをした時にも、なぜかナナコさんは突然行方不明になっていたな!」

「ナ、ナハハハ! アイツ、どこ行きやがったんやろなぁ?」


 苦しい笑い声をあげるナナハラのおっちゃんだが、ゲンブースターだけはその正体がわかるらしく、おっちゃんに向けてクンクン言いながら尻尾を振っている。


「まったく……」


 瑛士は呆れるやら、それを通り越して感心するやらの気持ちで今日何度目かの溜め息をついた。



 子供神輿作りは、子供達の学校が休みである土曜日を中心に行われた。何回目かのワークショップを経た作業室には、神輿らしく組みあがった土台が出来上がっており、今日はみんなでそれに付ける飾りを作っているところだった。


 そんな作業室へ、予定外の来客があった。


「マジでこんな作業してたんだ」

「ご苦労さーん」

「田中くんと……吉田くん……」


 紗菜が複雑な表情で見つめるのは、この前、カフェテリアで彼女に絡んでいた郷土史研究会のメンバーだった。当然、あの日以降も彼らがサークルに顔を出すことはなかった。


 カフェテリアの話を聞いていたゲンブレインの一人と一匹、そして今日は量産型女子大生モードのナナコは、警戒するように二人を取り囲む。

 だが、その厳しい空気にも、二人はふてぶてしく笑った。


「別に俺らサークルの退会届も出してないし、来たっていいよな?」

「手伝いに来ただけだぜ? なんも悪いことないだろ?」

「え、ええ……そうね……そうだけど……」


 紗菜が歯切れ悪く答えたところへ、もう一人の来客が現れた。


「やあやあ、岡本さん達! 頑張っているようだね」

「萩本教授! わざわざありがとうございます」

「学会とその準備でなかなか見にこれなくて、すまなかったね」


 文学部史学科の主任でもある萩本教授は、三つ揃いの背広を纏った柔和な笑顔の白髪の老紳士だった。


「みんな、こちら、紗菜お姉ちゃんの先生の萩本教授よ」

『こんにちはー!』


 子供達の元気な挨拶に、萩本教授は嬉しそうにニコニコと頷いた。それから、子供達の作業する机を回りながら、ゆっくりと子供達の話を聞いていく。田中と吉田はさっきの横柄な態度が嘘のように、見え見えのおべっかな態度で教授について回った。


 その様子に、ナナコは思い切り不機嫌な顔になる。


「紗菜さん、いいんですかー! きっとアイツら、教授にいいインターン先紹介してもらおうとか、そういう下心があるから来たんですよぉ!」


 紗菜は口を真一文字にし、力なく首を横に振った。


「いいのよ……どんな理由でもまたサークルに来てくれたのなら、ありがたく受け入れないと。それに、郷土史研究会がこんな状態だなんて、教授に知られてがっかりさせたくないの」

「紗菜さん……」


 ナナコは複雑な表情で紗菜を見つめた。


 一方、萩本教授は、おさげの少女・遥香に声を掛けていた。


「ほう、これは桃の花かな?」

「そ、そうです。あの……紗菜お姉ちゃんが、玄武丸の守護のシンボルだって、その……教えてくれて……それで……」


 ハニカミながらも、遥香は必死に答えた。その様子に萩本教授は目を細めて嬉しそうに頷く。遥香はホッとしたように息をついた。


「また祭りの日にみんなの勇姿を見に来るからね。楽しみにしておるよ」


 帰っていく教授を、子供達とみんなで手を振って見送た。教授の姿が見えなくなると、すぐに田中と吉田が態度を一変させる。


「じゃ、そーゆーことで、俺らも祭りの時にまた来るわ」

「正直だりーし」

「こんな作業やってらんねーよな」


 そう言って、彼らはケースにしまってあったナイフや鋭利なハサミを取り出し、振り回して遊び始める。ゲンブレイヴがそれに気づいて動こうとした時、誰かが叫んだ。


「だ、だめだよー!」


 叫んだのは遥香だった。


「は、刃物は危ないから、遊んじゃ……ダ、ダメなんです!」


 遥香は必死に訴えていた。今日の安全唱和は「刃物は慎重に扱う、ヨシッ!」だったのだ。真面目な少女はそれを厳格に守っていた。


「そーだぞ、お兄ちゃん達、そんなこともわからねえのかよ」

「だっせー!」


 遥香を援護するように、少年達も大声で囃し立て、ゲラゲラと笑う。

 田中と吉田はカッとなったのか、大人げなく子供達を睨みつけた。


「なんだよ、お前ら! ガキのくせに大学生に対して調子乗ってんじゃねーぞ」

「つーか、これ桃の花のつもり? すっげえヘタクソなんだけど。まじでウケる」

「これ、下手くそだから処分した方がいいんじゃねえの?」


 二人は意趣返しのつもりなのか、遥香の作成途中の工作品を手に取り、ピラピラと振り回して嘲り笑ったうえ、折り曲げるような素振りを見せた。見る間に、遥香の目元に涙が溜まっていき、それが目から零れ落ちる。


「ひっでー! 大人なのに女の子を泣かした~」

「遥香ちゃんに謝れよ!」


 少年たちの非難の声も、今の二人には火に油を注ぐことにしかならないようだ。


「本当のこと言われて泣いちゃったんでちゅか~?」

「女の子は泣けばいいと思ってるんでちゅね~?」

「やめて、そんな言い方……! 遥香ちゃん、ごめんね!」


 紗菜が遥香を守るように抱きかかえる。代わりに、ゲンブレイヴが田中と吉田の前に立ちはだかった。


「早く遥香ちゃんに謝りなさい! 正当な注意を受けたのに、それを受け入れないどころか、意地悪で返すだなんて、大人のすることではないぞ!」

「なんだよ、テメーは?」

「プッ! 何そのダサい格好」


 田中と吉田にはまったく反省の色が見えなかった。


「君達はそれでも大学生なのか! 謝る気がないなら、帰りなさい!」


 ゲンブレイヴは毅然とした態度で二人に宣告し、首根っこをつかむと作業場の出口から外に放り捨てた。ゲンブースターも牙を剥いて唸り、今すぐ飛びかからんばかりの勢いだった。


「な、何しやがる!」


 二人は反抗的な態度だったが、室内の男子達は「ゲンブレイン、カッコいい!」の大喝采だ。ゲンブースターが大声で吠えると田中と吉田は身を竦ませ、彼が飛びかかるふりをふると、二人は尻尾を巻いて逃げ出した。


「マジやめろ~!」


 情けない声をあげる二人を、ゲンブースターは牧羊犬の本能を思い出したがごとく、彼らが十二号館の敷地から出ていくまで追い立てていく。


 作業室では嗚咽を漏らす遥香を、紗菜が宥めていた。


「遥香ちゃん、遥香ちゃんの作るのは素敵なお花よ。わたし、遥香ちゃんの作業見てたから知ってるわ。最初は大まかに形を切って、これから綺麗に形を整えるつもりだったのよね?」


 泣きながら遥香が頷く。


「言い返せない自分が悔しかったのね。大丈夫。わたしはわかっているわ。大丈夫よ」


 紗菜は遥香を抱きしめたまま、優しく背中を撫でる。

 少年達やナナコだけでなく、瑛士も、その様子を複雑な表情で見つめていた。



 その日、迎えにやって来た遥香の両親に、紗菜は概要を伝えて頭を下げた。両親は郷土史研究会に不信感を抱いたようだったが、紗菜の反省ぶりと、遥香の「続けたい」という希望によってなんとか事なきを得た。


 子供達の帰った後の作業室では、ナナコが怒りに燃えたぎっていた。


「何なんですか、アイツらー! ナナコ、普段は人間大好きっ子ですけど、こういうのにはガチギレのマジギレの激おこプンプン丸ですー!」


 言葉に出しただけでは気が収まらないのか、ナナコはどすどすとガニ股で作業室内を歩き回る。保護者対応から帰ってきた紗菜も、今まで見たことがないくらい険しい表情をしていた。


「わたし、間違っていたわ。サークルの体面なんか気にしないで、あの人達を中に入れなければよかった。もう二度とここに入れるものですか!」

「そうですよ、紗菜さん! ナナコも、あんな奴らは永久追放でいいと思います!」

「私もそれがいいと思うぞ!」

「わふわふ!」


 ナナコやゲンブレインが熱く同意する中、瑛士だけは違った。


「いや、祭りにはあの二人も招待してはどうだろう?」


 その言葉に、全員が不審の目を瑛士に向ける。


「瑛士さん、あんな糞野郎どもを擁護する気ですかー! ナナコ、信じられません!」

「ナナコさんの言うとおりだ、瑛士くん! 子供たちにとっては、奴らは悪だ!」

「そのとおりよ」

「わふわふ!」


 みんなの反論にも、瑛士はゆっくりと首を横に振る。


「だからこそ、奴らにはいい役回りがある」


 つぶやいた瑛士の言葉に、ナナコは何かに思い当たったように両手をポンと叩いた。


「もしかして、瑛士さんの考えって……!」


 ナナコは「こういうことでは?」と、あるプランを口にする。


「……って、ことですよね、瑛士さん?」

「ああ」

「えへへ! やっぱりナナコって、瑛士さんの一番の理解者って感じですね~」


 全身ですり寄ってくるナナコに瑛士は辟易しつつも、この計画はナナコに担ってもらう役割が大きくなる見込みであるゆえ、今回ばかりは甘んじてそれを受け入れることにした。


「瑛士さんのプラン良くないですか? ね? なんかうまくいきそうな気がしません?」

「そうね……いいかもしれないわ!」

「私も協力しよう!」

「わふわふ!」


 全員が頷いたところで、ナナコが「それではこの計画で進めましょー!」と宣言し、嬉しそうに瑛士に頬ずりし始める。


「うふふ。瑛士さん、ナナコを拒否しないところを見ると、やっとナナコの魅力に気付いて参ってしまったようですね!」

「調子に乗るのはやめなさい」

「はーい!」


 と返事しながらも、まったく離れようとしないナナコに、瑛士は深く溜め息をついた。

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