51話 廃塾宣言


51 廃塾宣言


見れば引き戸のむこうは闇。

それでガラス戸は鏡のようになっている。

わたしの立ち姿が映っている。

不吉なピンクの霧が後光のように、わたしの周りにただよっていた。

ピンクの死霊のようなクラゲがわたしの周囲に群がっている。

わたしは死ぬのだろうか。ピンクのクラゲが群れをなして泳いでいる。

それは窓を透かして教室にはいってきた。

いやちがう。

ガラス戸の鏡に映っていたということは、この教室にピンクのクラゲが遊泳ていたことになる。そうか、死ぬのは教室だ。

最後の授業がおわった。

最後の生徒が帰って行った。

塾はこれでおしまい。

50年つづいてきた塾の終焉。

わたしは黒板の前に立っていた。

誰もいない教室。

わたしは黒板にむかった。

指示棒を右手に取り黒板を軽く叩いた。

誰もいない教室。

生徒たちの注意をうながす動作。

ひとり授業をはじめた。

この教室も明日は取り壊す。

さよなら授業を――わたしはまるで儀式のように行った。

さようなら、「アサヤ塾」。

さようなら卒業生のみなさん。

おげんきで。

こうして……鹿沼で数々の都市伝説を生んだ「アサヤ塾」が消えた。

                                     

                           完





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「アサヤ塾」の窓から 麻屋与志夫 @onime_001

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