少女と罪と祈り


乱れ咲く朝顔が一つ一つ繊細に異なる表情をみせるように、この作品の随所に散りばめられた「朝顔」という言葉にはいくつもの意味が宿る。その不気味な青白さは、あるいは少年であり、あるいは罪を思い返す現在の彼であり、あるいは祖母であり、あるいは少女の父であり……しかし要するに、田舎そのものであった。豪奢な館を、蔓を伸ばし這い回り犯す、静かな魔物であった。そして、少女では、決してなかった。

少女だけが異邦人だ。都市の血を半ば持つ少女は、しかし田舎から逃げきれぬ血も半ば持っていた。母は、彼女を捨て置いて消えたことを見逃してはならぬ。魔物の重圧に縊り殺されたのが、縛られた異邦人たる少女ではなかったか。彼女の肌に呪いのような青を刻みつけたのは、誰でもなく、また、誰でもあった。
「朝顔」を踏みつける青みがかった少女の脚を、美しいと見るのは、やはり罪であろうか。田舎に育った私の、罪を突き付けられたがゆえの、祈りであろうか。それでも傷は美しかった、と……。
少年の回想にも、このような祈りが秘められているとみるのは、自らと彼をひきつけ過ぎか。しかし、惨状を奥に秘めて清廉なワンピースとカーテンの重なりを、妖しいと言わずして何と言おう。この白を語り直してしまう彼の眼には、祈りの影が差している。

この作品を朝顔の咲く季節に読まなくてよかった。
禍々しい効能を秘めながら、静謐に咲く花は、おそろしい。

その他のおすすめレビュー

しゃくさんしんさんの他のおすすめレビュー20