作品自体で完成されていて、私のような凡夫には、陳腐な賞賛しか不可能だ。
物語とは、こういうもののことを言うのだろう。どんでん返しとは、こういうもののことを言うのだろう。
この作品の衝撃的展開は、読者のストーリーへの予想を裏切るとか、そんなチャチなものではない。この作品によって、裏切られ、転倒せられ、破壊されるのは、我々の現実そのものだ。どんでん返しを食らうのは、我々の現実に他ならないのだ。
我々を飲み込まない物語は、戯作という玩具に過ぎない。この作品は戯作とは一線を画する、純粋で、本物の、物語だと思う。