属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?
さくら
第1話 神島京
「チュッ、んくっチュパッ」
年の頃は10代半ばといったところだろうか。
ここが恋人達の集まる人気のデートスポットだったり、良い雰囲気の公園だ
ったりするならば割とよくある光景だろう。
だが、ここは不浄の土地。
目の前にいるは不浄の災厄と呼ばれる人類の敵。その中でも人型をした最下
位種が、黒ずんだ薄汚い顔と耳の近くまで裂けた口を歪めニタニタと笑いなが
らこちらを見ている。
(そうやって笑っていられるのも今のうちだ。お前らにとってこれが最後の
ご褒美だ)
キスをされている側はそんな事を考えていた。
なぜこんな場面で濃厚なキスをしているかは謎だが。
世界中に広がり過ぎた戦火により、人類はその数を大幅に減らしていた。
それに追い討ちをかけるかのように現れたのが不浄な土地とそこに巣くう不
浄なる災厄である。
厄介な事に不浄な土地は放っておくと増え続け不浄なる災厄も生息域を増や
していった。
こんな事が世界各地で起こるようになってから50年以上が経つ。
かつては日本と呼ばれたこの国も例外ではない。元から少なかった、人の住
める土地を減らしていた。
その不浄なる災厄に対し、神仏本庁は八百万の神を有し仏を崇める国として
土地と災厄を浄化するシステムを長い年月をかけ作り上げた。
それが巫女でありその巫女を守り、力を解放させる存在が護衛騎士だ。
そして国名も首都の名を借り神島京国となった。
「ふぅ」
長いキスが終わり顔を赤らめた少女が熱い吐息を吐いた。
「今日はいつもより長くなかったか?」
片手で刀の柄を弄びながら聞くと、少女は怒りを見せる。
「わたしがあれだけしてあげたのにそれだけ!? もっと他に言う事があるん
じゃないの?」
少女を怒らせてしまったようで刀を持った方は慌てて弁解をする。
「い、いや! 薫子の想いは俺に伝わってきたぞ」
「はぁ?何勘違いしてるのよ。別にあんたの事が好きでしたんじゃないんだか
ら!」
「キーッキーッ」「キーッ」
まるで続きをもっとやれとでも言ってるかの様に空気を読まないゴブリン達
は声をあげている。
その内、何かに気づいたゴブリン達は少女に向かって近寄ってきた。
見られないならば、自分でやればいいとでも考えたのだろう。
「あーっもう煩いし気持ち悪いわねぇ。さっさと浄化するわよ」
「あぁ、わかった」
短く返事をし抜刀すると、刀身には紅く揺らめく何かが纏わりついている。
「
その声に呼応して紅く揺らめく何かが大きくなる。
「わたしもいくわよー! 祓い給え、清め給え」
少女の
それと共に八相の構えから一気にゴブリンとの間合いを詰める。
少女が解放した力を分け与えられ通常ではありえない速度でゴブリンへ斬り
掛かる。
「キー?」
ゴブリンの体が真っ二つにされ燃え上がる。斬られたゴブリンは自分が斬ら
れた事すら気づかないままに浄化された。
次々と切り伏せられ浄化されるゴブリン達。それでもまだ30体は残っている。
少女はその間も
「離れて!諸々の
構えた手から巨大な火でできた鳥を生み出した。
その鳥は鳴き声をあげながらゴブリンの群れを
剣士は少女の側に戻り刀を鞘に戻す。
剣士?否。ただの剣士ではなく護衛騎士である。そしてゴブリンを浄化して
いる少女は力を解放した巫女。
2人の力は凄まじいの一言に尽きる。これでまだ見習いだというのだから。
「災厄は片付いたわ。土地の浄化をするからこっちへ来て」
言われるままに護衛騎士は巫女に近寄る。
「これも浄化のためなんだからね!ほらっもっと顔下げて!」
「これでいいか?」
「わたしからしてあげるんだから感謝しなさいよ!」
巫女は護衛騎士に軽く身を寄せながら再びキスをする。
「チュッ」
今度は短く優しいキスを。
「もうちょっとしていたかったけど今は浄化しないとね」
元の少女に戻り土地の
護衛騎士はその姿を静かに見つめていた。
しばらくして完全に土地も浄化され、
た地面も見えるようになった。
「これで浄化できたよ。今日も守ってくれてありがとう。姫ちゃん大好き」
「薫子を守る事が俺の役目だからな」
巫女見習いの千堂院 薫子を守る護衛騎士、彼女の名前は姫宮 姫。そのかわ
いらしい名前の通り彼女もまた少女であった。
過去の戦乱では多くの男性が犠牲になってしまった。
災厄を浄化するこのシステムは巫女と護衛騎士が女性同士である場合のみ、
その力を解放できる。
それは巫女の家系で育ち巫女となるべく教育を受けてきた薫子にとって願っ
てもないチャンスだった。
幼馴染で大好きな姫を護衛騎士にするための。
綺麗なストレートの黒髪をした少女である姫宮 姫は、若くして実家の姫宮
流剣術の免許皆伝の腕を持っていた。
名前とは裏腹に男勝りで一本気がある性格と美しい見た目に薫子は子供の頃
から虜にされていた。
そうやって懐いてくる薫子を姫が無下にできない事もわかっていたので、自
分の護衛騎士にするためにあの手この手を尽くしたのだ。
「これなら近くの街まで戻れそうだな」
「そだねー。ねね、今日は一緒にお風呂入ろうよー。いいでしょ?」
「しかたがないなぁ。今日だけだぞ」
「やったー。早く帰ろうよー」
姫は腕を掴んで急がせる薫子に苦笑しながら、浄化された街までの道を進ん
でいった。
彼女達にとって今回が神仏本庁より言い渡された初の派遣任務である。
実戦経験のない見習いである彼女達をいきなり海外派遣などするわけもなく、
まずは関東と呼ばれていた場所から少し西側へと派遣された。
街付近は強い結界で守られ、賑わいを取り戻してはいるが戦争前の世界に比
べると文明レベルは数段下がっているだろう。
「あっ!報告忘れてた!結界もお願いしちゃうね」
そう言って専用端末のアプリを立ち上げると画面には神仏本庁のロゴが浮か
びあがる。
IDとパスを入力して接続するとナビゲーターが現れ用件を聞かれる。
「巫女の千堂院 薫子です。作戦地点の浄化完了いたしました。引き続き結界
の用意をお願いします」
「千堂院 薫子様ですね。少々お待ち下さい」
ナビゲーターが少しの間何かを調べている。どうやって何をかはわからない
が手を動かしているのがわかる。
少し経ち再び話し出した。
「ただいま確認いたしましたので結界班を向かわます。おつかれさまでした」
接続が解除され神仏本庁のロゴが消えていく。
「初めて見たが、すごいな」
「わたしも初めてで少し緊張しちゃった」
それは未だに残ってる技術としては最先端のものだろう。
多くの技術が失われただけでなく、人材も資源さえも足りていないのが現状
だから……。
「姫ちゃん姫ちゃん。お風呂でチューしよ?」
「いきなり何を言い出すんだ! 俺と薫子は女同士じゃないか」
「ぶー!いいじゃーん、ケチー。姫ちゃんの知らないわたしもっと見せてあげ
るよ?」
薫子の突然の発言に冷静さを失い戸惑う姫だったが、二人の間ではいつもの
やり取りだったのですぐに問答無用で切り捨てる。
「ダメと言ったらダメだ」
「もーこんなに姫ちゃんとチューしたいのにぃ。あっ!姫ちゃん腕少し切れて
るよ」
「本当だ。さっきの戦闘で切ったのか」
「隙あり!チュッ」
腕を見ている姫の隙をついて薫子はキスをした。巫女の力が解放される。
「あらあら、姫ちゃん。そういう怪我はちゃんとお姉さんに見せなきゃ駄目よ」
「あ、あぁ。すまない」
これが彼女の巫女として解放された力。
護衛騎士とのキスにより五行と隠された属性を操り様々な奇跡を執り行う。
その力はあまりに強く、行使中は自らの性格すらも変えてしまう。
「街に戻ったらお姉さんが見てあげますからねー」
「お手柔らかに頼む」
逆らっても無駄だと判断した姫は成り行きに任せる事にした。
なぜかというと、この姉モードの薫子にはいつも敵わないからだ。
果たしてある意味では災厄よりも手強い彼女の魔手から逃れる事ができるの
だろうか。
(無理なんだろうな)
姫は軽く溜め息をつきながら、薫子と共に夕焼けに染まる街を目指した。
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