第5話 神通力

 既に浄化済みである海辺の街までの道すがら伊奈と話をしていた。

 結界班により徐々に結界が張られ、安全区域と言って良い程の清浄さが保た

れている事に伊奈も感づいていた。


「わらわの事は「伊奈」か「伊奈ちゃん」と呼びなんし。一緒に旅をする仲だ

 しの。堅苦しいのはなしじゃ」

「わかった。伊奈ちゃん」

「適応早いよ!姫ちゃん!もう、わかりました。伊奈ちゃん?これでいいです

 か?」

「薫子はまだ堅いのう。まあ、ようす。街まではどれぐらいありんすかえ?」


 崩れた道を進み、だいぶ山奥にあった社なので来た時の時間で換算すると徒

歩で数時間は掛かるだろう。


「来た時は数時間掛かった」


 いつもの事なのでなんでもない事の様に伝えるが、ひきこもっていた伊奈に

とって数時間の徒歩はつらいもののようだ。


「わらわはそんなにぎょうさん歩くの堪忍なのじゃ」

「京都まで行くのに伊奈ちゃん大丈夫か?」


 姫の疑問も当然だ。ここから京都までは荒れた道と不浄な土地、そして災厄

も出現するのだから。


「そもそもお主らは移動で巫女の力を使っておらんのかえ?」


 伊奈の疑問に姫と薫子は顔を合わせ苦笑いを浮かべる。言い難そうにおずお

ずと薫子が説明をし始める。


「使えないという事はないのですが、移動に関する巫女の力を使うと性格がで

 すね」

「なんじゃ、使えるのではないか。わらわも力を貸してやるからさっさと使っ

 てはよう街まで行きなんす」


 姫は凄く嫌そうな顔をしている。

 だが、もう見てもらった方が早いだろう。


「姫ちゃんごめんね。暴走したら無理矢理解除して。ハッ!無理矢理っていい

 かも……。」

「街までならそこまで暴走する事もないかもな。とりあえず解放してみろ」


 姫の了承を得てキスを交わして巫女の力を解放した。

 キスはそれだけで終わらない。

 薫子は姫の体に自分の手足を絡ませねっとりと舌を絡めていく。それだけで

は終わらない。

 胸元から溢れんばかりに主張している姫の胸を強く揉みしだきはじめた。


「お、お主ら何をしとるんじゃ……」


 巫女の力の解放にキスが必要だと聞いていたが、目の前ではそんなものを越

えた熱い絡み。そんなものを見せられて思わず伊奈も声を掛けてしまった。

 薫子は腰砕けになってる姫を優しく座らせると伊奈の方を見てニヤリと笑っ

た。

 その顔を見た瞬間、嫌な予感がして背を向けて逃げる伊奈であったが時既に

遅し。


「伊奈ちゃーん。どこへ逃げようとしてるのかなぁ?」


 離れた場所にいたはずの薫子は伊奈のすぐ後ろに現れた。そして後ろから絡

みつかれ、先程の姫の様に伊奈は捕らわれた。


「逃げさせてなんてあげない。伊奈ちゃんのロリ巨乳も味わってあげる」


 ゾクリとし動けなくなる。まるで蛇に睨まれた蛙みたいに。

 薫子の細い指と手が伊奈の主張して止まない胸元に伸びたその時。


「いい加減にしろ。チュッ」


 腰砕けになっていた姫が薫子を押し倒し力を強制解除した。


「ふぅー。こういうわけだが、わかってもらえたか?」


 伊奈は涙目になりながら大きくうんうんと首を縦に振っていた。


「解除してくれましたか。申し訳ありません。そんなに怖がらないで下さい」


 力が強制解除された後も伊奈は姫の後ろに隠れて薫子を警戒している。

 姫はなぜか伊奈に頼られて満更でもなさそうな表情を浮かべていた。


「さっきみたいに力が暴走してしまうため移動の巫女の力を解放できないんで

 すよ」

「よ、よくわかったのじゃ。さっきの力は余程の事がない限りわらわの前では

 やめなんし」


 伊奈も身を以って理解する事ができた。薫子の巫女の力があてにならないと

わかった伊奈は、自身の力を貸し与える事に決めた。


「もちっと待ちなんし。わらわがをお主らにも与えんす」


 伊奈は両足を大きく開き両手を額の前で合掌している。

 徐々に伊奈の髪や耳や尻尾が金色に輝いていった。その輝きが伊奈を包み込

むと伊奈は合掌していた両手を姫と薫子に向けた。

 伊奈から一気に力が流れ込む。

 その力は二人の全身を金色に染め上げていた。


「今回は特別じゃぞ。


 唱えると同時に伊奈は額の前で両手をパーンッと一度打ち鳴らす。

 

「な、なんだこれは」


 姫がそう言うのも無理はない。今、3人は景色が早送りされている不思議な

空間の中にいる。

 来る時に通ったような気がする景色が一瞬で通り過ぎていった。


「これはたぶん神通力ね。わたし達人間には到底及びもつかないものよ」

「さすが巫女だけあってえらしりでありんす。神通力が一つ神足通。今は神力

 が少なくて時間が掛かるのじゃ」


 10秒を過ぎた辺りで景色の早送りがゆっくりしたスピードになり、完全に止

まるとそこは今朝出たはずの海辺の街のすぐ側であった。


「はぁはぁ!どうじゃ?すごかろ?」


 そんな途方もない現象を起こした本人は息も絶え絶えで四つん這いになって

いた。

 姫は動けない伊奈をおんぶで背負い、薫子は伊奈ちゃんすごーいと囃したて

ている。


「そうじゃろ。こんな施し滅多にしないんじゃぞ。特別じゃぞ」

「伊奈ちゃんはすごいなぁ」


 さっきまでの体験は確かにとんでもないものであった。あれで神力が少ない

とは。


「ところでその神足通で京都まで行けないんですか?」


 薫子はもっともな事を尋ねる。わざわざ結界を張ってまであんな山奥に閉じ

篭もっていたのだから。


「神力があれば距離なんぞ問題ないんじゃが……。さっきも言うたが今は少な

 いでありんす」


 少し落ち込んでしまったようだ。そんな伊奈を元気づけようと姫と薫子が励

ます。


「俺達が連れて行くから元気出せ」

「そうですよ。伊奈ちゃんは笑ってる方がかわいいですよ。それに、この街は

 温泉もありますから入って元気出しましょう」

「な、なんじゃと!?お ん せ ん!」


 温泉と聞いた途端、元気になる伊奈。あまりにテンションの上がる伊奈を不

思議に思い質問するとこんな答えが返ってくる。


「温泉にはな、地の龍脈から流れ出でた力がたっぷり入っておるのじゃ。わら

 わの神力も少しは回復させる事ができなんし」

「あー、それは巫女としての修行中に聞いた事がありますね。巫女の力も温泉

 で回復させられるとか」


 納得のいく答えが得られ、その後も温泉の特殊な効能について話しながら昨

日泊まった宿への道を帰っていった。



 宿へ着き同じ部屋にチェックインを済ませ、宿泊人数が1人増えた事を告げ

る。

 受付の間も昨日とは違った意味で注目を集めている。

 さっき使った神通力の影響か怪しく光る金色の目を持ち、頭に耳を生やしお

尻からは毛並みの滑らかそうな尻尾が生えている巨乳ロリを巫女と共にいる護

衛騎士がおんぶして現れたら誰でも驚くだろう。

 受付の近くにいた老夫婦など揃って手を合わせ拝んでいた。


「く、くるしゅうないでありんす」


 稲荷信仰は古事記や日本書紀の時代からこの国に根付いており、伊奈のこの

姿を見れば稲荷神に縁のある使いではないかと気づく者もいる。

 3人が受付からいなくなるまで老夫婦は低頭していた。


「伊奈の上司は俺でも知ってるぐらい有名な神だからか」

「姫ちゃんは護衛騎士なのに疎いからねー」

「悪かったな。家の近くにもお稲荷様あっただろ」


 姫に言われて思い出す。子供の頃、二人でよく待ち合わせて遊んだお稲荷様。


「今はわからんが全国各地にあったのじゃ。お陰でこんな妙ちくりんな喋り方

 になってしもうたがのう。それよりも今は温泉じゃ!」


 部屋に着くなり、服を脱ぎ出す伊奈。


「くんくん。こっちじゃな!」


 匂いを嗅ぎ分け露天風呂へと走っていく。さっきまで姫におんぶされていた

のがまるで嘘のように。

 その自己主張の強い大きな胸をぶるんぶるん震わせながら露天風呂へとダイ

ブした。


「こらーっ!ちゃんとかけ湯しないとダメでしょ!」

「薫子はうるさいのう。そんなに怒ってると皺が増えるのじゃ」


 怒りの表情を浮かべカチーンと固まる薫子。


「なん……ですって……?」


 薫子を見て姫は触らぬ神になんとやらという思いで我関せずにお茶をすすっ

ている。

 不自然なぐらい、にこにことした笑みを浮かべた薫子は姫にキスをし巫女の

力を解放した。


「伊奈ちゃんさっきぶりねぇ。今度こそたっぷりと味わってあげる」

「薫子!それはずるい!ずるいでありんす」


 薫子はねっとりたっぷりと体を味わった。

 そして、ショックで気を失った伊奈の体を優しく洗ってあげた。数十年ひき

こもっていた体を。

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