第6話 食
二人が温泉に浸かり一息ついたのを見計らって温泉に入る姫。
薫子との長年の付き合いかこの巫女の力の弱点も熟知している。自らの欲望
を発散させた後は隙だらけになるのだ。
「チュッ」
忍び足で薫子に近づき巫女の力を強制解除し自分はそのまま洗い場へと向か
った。
薫子は強制解除され力なくグデーンとなっている伊奈を見てハッとなる。
「キャーッ!伊奈ちゃん大丈夫!?やりすぎちゃった」
一旦お湯から出し涼ませてあげながら本来の水の巫女の力を解き放つ。
「掛け巻くも
薫子から
しばらくすると伊奈は意識を取り戻した。
「ここは……?」
薫子を見るとさっきまでの一部始終を思い出し走り出した。そして洗い場で
ゆっくり体を洗っていた姫の後ろに隠れた。
「鬼じゃ!あやつは鬼のうつしみなのであろう!姫、わらわを助けてたもれ」
姫は伊奈の頭を撫でるように軽くコツンとした。
「温泉のルールは守らないとな。さっきのは伊奈が悪いぞ」
姫に叱られしょぼんとしてしまう。その姿は怒られたただの幼女であった。
ある一部を除いて。
「すまんのじゃ」
「謝るなら俺じゃなくあっちだ。薫子も謝れば許してくれるさ。あまり怒らせ
ないようにな」
手振りで薫子の方へ行かせる。
「薫子すまぬのじゃ。久方振りの温泉に舞い上がり過ぎたでありんす。一緒に
入るのじゃ」
「はいはい。体は洗っておきましたからゆっくり温まって力を回復させましょ
うねー」
不安げに謝る伊奈の手を取り幼女を扱うように手を繋いで温泉へと入ってい
った。その後姿を見て姫は安心しはぁっと息を吐くのであった。
姫もようやく体を洗い終えると二人が入っている露天温泉に入った。
「はぁー」
薫子は自分のぺったん胸と目の前にいる伊奈と今温泉に入ってきた姫の巨大
な果実を間近に見て溜め息をつく。
それに追い討ちを掛けるかのような二人の会話が耳に届く。
「わらわは肩がこって仕方がないでありんすえ」
「俺もなんだ。なぜだろうな」
おもいっきりそれはその大きい胸のせいだよっ!と叫びたい薫子だが、全く
肩こりのない自分がそれだけは絶対に言うまいと心の内で決めた。
それと一つ気づいてしまった。
他者にあまり関心を示さずいつも冷静な姫がなぜか伊奈に対しては自分から
話し掛けたり近づいてる気がするのだ。
よくよく見てみれば、姫の視線は温泉の中にあっても伊奈の方へ向けられて
いる事が多い。
「姫ちゃん、一つ聞きたいの」
「藪から棒になんだ?」
「なんで伊奈ちゃんの事ばかり見てるの?」
それを聞かれると姫は正直に白状する。
「伊奈ちゃんの耳と尻尾がかわいらしくてな。むしろ触りたい」
薫子は大きなショックを受ける。巫女の力では属性や性格を変化させられる
が見た目は変化させる事ができないからだ。もちろん胸も。
「そ、そんなー。わたしじゃ姫ちゃんの欲望を満たしてあげられないの……。」
「欲望ってそんなつもりはないんだが」
器用にプカプカと温泉に浮かんでいた伊奈が助け舟を出す。
「なんじゃそんな事か。わらわの教えを熱心に受ければ耳と尾を生やす事なぞ
造作もないでありんすえ」
「本当か!?」
「ただし巫女に限るのじゃ」
即答されうなだれる姫。伊奈自身に惚れたのではない事を知って薫子は少し
安心した。
「わたしに耳と尾が生えたら触らせてあげるから元気出して?」
「わかった!早く生やしてくれ」
姫のこの食いつき具合を見てついに突破口を発見し嬉しくなる。
「伊奈様は」
「伊奈ちゃんじゃ!」
即座に突っ込まれて訂正して話し出す。
「伊奈ちゃんはそれだけの力があるのになぜ幼女の姿形をとってるのですか?
胸以外」
「それも神力不足じゃからでのう。本来のわらわはこの豊満な胸だけではなく
全ての者を惑わす程の美貌を持っているのじゃ」
「も、もしかしてわたしも伊奈ちゃんの教えを受けていれば胸を大きくする事
も可能に!?」
「ふっふっふ。よくぞ気づいたのじゃ。耳や尻尾だけでなくこのビックフルー
ツおっぱいも手にできるでありんす」
なんという事だろうか。薫子は即決した。
伊奈を京都に連れて行く間、その教えを受け最高の自分で姫に迫ろうと。た
だ少し違和感があった。
「伊奈ちゃんって神の使いですよね?神の使いがそんなオーバースペックって
ありえるんですか?」
「ギクッ!いいのじゃ!わらわじゃからな!」
なんだかすごく怪しいと感じた薫子だが、そのビックフルーツを目の前に突
き出されては何も言えなくなってしまった。
姫は目をつぶり伊奈の教えを受け薫子に耳と尻尾が生えたのを想像している。
そして伊奈と薫子のダブル耳尻尾攻撃(妄想)でのぼせかけていた。
温泉からあがると、ゆっくり温泉を楽しみ力を回復させた薫子と伊奈は元気
一杯。一方、一介の護衛騎士に過ぎない姫にそんな効力はなく疲れはとれたが
完全にのぼせてしまい横になっている。
「姫ちゃん大丈夫?」
「あぁ。少し横になれば良くなる」
「仕方ないのう。ほれ」
さっき薫子が伊奈に使った水の巫女の力を祝詞もなしに発動させるとその清
廉な水を姫に垂らした。
その水は姫に吸い込まれる様に消えていく。
赤らんでいた顔がだいぶ平常時の白い透き通る肌に戻っていく。
「楽になってきた。ありがとう伊奈ちゃん」
「くるしゅうないでありんす。これはただの模倣じゃ」
薫子は訝しげな表情で伊奈を見ていた。
模倣。つまり自分が伊奈に使った巫女の力を模倣して神力で行使した事にな
る。
さっきは胸を目の前に突き出されてこんな胸を手に入れられるならと思い黙
ってしまったが、神の使いが行使できる力とはこんなに大きなものなのであろ
うか。
自らも巫女として修行を積んだ身であるため神や仏、それだけではなく悪鬼
や羅刹等、様々な事についても学んできた。
本来、神の使いというのは動物の形をとる事が多くその役目は現世の人々へ
神の意向を伝えるメッセンジャーに過ぎない。
だが実際はどうだろう。目の前にいる伊奈は神力を使いこなし巫女の力の模
倣まで簡単にこなす事ができるではないか。
人類の絶滅の際に神が遣わした力なのか、はたまた……。
「こらっ!姫、尻尾を撫でるのを止めるでありんす。力が……抜けて……」
「よいではないかーよいではないかー」
棒読みの姫となんだかハアハアしてる伊奈を眺めていたら、そんな事はどう
でもよくなった。
この状況を放っておく方が良くない。
「姫ちゃん!わたしという者がありながら何してるのっ!」
「だって薫子にはまだ生えてないじゃないか」
「ぐぬぬ……。わたしだってすぐ生やしてみせるんだからー!」
そんな薫子の心からの叫びが響き渡った。
「生えるとかまだ生えてないとか。わらわも神力不足で生えてないでありんす」
「「そっちじゃない」」
さっきまで温泉で散々見た二人は即座に伊奈の勘違いを訂正した。
「それよりも次はメシじゃメシじゃ。何十年振りであろうかのう」
死んだような目になりブツブツと語り出す。
「あの神社に閉じこもってる間、ほんに食べる物もなくて……。最近食べたの
は境内の木の下から掘り起こした、む」
「やめてー!今日はちゃんと食べさせてあげるから」
「クリーミーで意外と」
「お願いだから説明しないでー!」
神の使いであっても抜け出せない過酷な状況だったのだ。
「俺も食べた事あるが意外といける」
「姫ちゃん!?お願いだからもうやめて!」
姫からも同様の告白をされ、半狂乱になる。
「神力で生きてるわらわには食などいらんのじゃがな」
「じゃあなんで食べたんですか!」
この後、薫子は二人に食について諭す事となる。
「お願いだから拾い食いはしないように」
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