第2話 海辺の街

 ここら一帯の海辺の街は、昔から温泉が出る事もあり人気の場所であった。

 神島京が国としての体裁を保ったまま生き残れた理由として、海に囲まれた

島国だったというのも理由の1つだろう。

 不浄な土地は海沿いには出現しない上に、決して海沿いの土地には広がる事

がないのだ。

 街には一応の措置として結界を張ってあるが、不浄な土地も現れないため災

厄も出現していない。


 姫と薫子はこの街を拠点にして山の方向に出現している不浄な土地の浄化を

行う予定だ。

 神仏本庁から受ける指令は薫子の端末に順次届く事になっている。



「今日のお仕事は終ーわり。難しい事は後回しで温泉を楽しみましょ」


 神仏本庁が手配してくれた宿は純和風であり、格式が高そうな宿であった。

こんな場所をポンッと用意するのも命懸けの戦いを繰り返す巫女と護衛騎士の

モチベーションを保つためかもしれない。


「その通りだな。部屋に行ったら早速温泉に行って汗を流すか」

「もう、姫ちゃんったら。わたしは食事も楽しみだわ」


 薫子は相変わらず姫の腕につかまったまま宿に入りチェックインを済ます。


「少し恥ずかしいのだが」


 剣士でありながら護衛騎士である姫は気配や視線に敏感だ。周囲から集まる

視線が気になり薫子に伝える。


「だーめ。さっきの戦闘で切ったところを修復中よ」


 自分の腕を見ると淡い光が零れている。周囲の視線はこの巫女の力見たさで

集まっていたのかもしれないと気づいた姫は、自分の早とちりだったのかと更

に恥ずかしくなる。


「あらあら、姫ちゃん耳まで真っ赤ね。かわいいわ」


 追い討ちをかけるかのように、そんな事を指摘されると恥ずかしさも頂点に

至る。


「ほら、さっさと部屋へ行くぞ」


 そんな風にぶっきらぼうに答えて案内してくれる仲居の方へ足早に進んでい

く。


「あんっ。待ってよ、もう」


 それでも無理矢理薫子の腕を振り解かないのは姫の優しさか。

 そんな姫の腕へと更に自分の腕を絡みつけながら、薫子は幸せいっぱいであ

った。

 巫女と護衛騎士が仲睦まじくしている姿はよくある事だったりもする。

 お互いの命を預け合い、戦いの中で守り守られる事で想いを育みやがて……。

 薫子の狙いは正にそれであった。古来から伝わる必殺技、つり橋効果。

 そこに巫女の力の副作用でもある性格の変質を効果的に使えば、いかに恋愛

に疎い姫でも攻め落とせると考えている。



 世界では既に女性同士の恋愛が推奨されていた。神島京も例外ではない。

 戦争と不浄の災厄の出現により人口を減らしてきたが、特に男性は前時代に

比べ1000分の1以下まで減っている。

 絶滅危惧されている男性の取り合いなんて事が起きてしまっては目も当てら

れない。


 恋や愛はこの厳しい時代を生きる原動力になる。

 姫にベタベタしてるこの薫子を見ればわかるだろう。ツヤッツヤだ。

 対する姫は恋愛には疎いが己に厳しくストイックであるためツヤッツヤだ。

 どちらも活力に満ち溢れている事に違いはないが姫の様なタイプは珍しい。



 仲居に案内されて通された部屋はあまりに豪華で2人で使うには広過ぎるよ

うにも感じた。

 窓からの景色は素晴らしく昼間の戦いでささくれ立った心を落ち着かせてく

れた。


「お食事の時間までまだございますが、先に温泉の方に入られますか?」

「あぁ、入るぞ入る!」


 仲居の質問にいつも冷静で落ち着いた姫にしては珍しく食い気味に答える。


「それでは食事の前に温泉に入らさせてもらいましょ」


 苦笑する仲居に薫子が改めて返答した。

 仲居が退室した後、説明された場所に収納されていた浴衣に着替える事とな

った。


「また胸大きくなってない?」


 浴衣に着替え終わり姫にできあがった巨大な胸の谷間と自分のこじんまりと

した何かを見比べながら薫子が問う。


「大きくなり過ぎても戦闘で困る」


 護衛騎士として姫は答えたのだろう。そんな姫に薫子は不満でいっぱいのよ

うだが。


「ずるいずるーい! 姫ちゃん後で覚えてなさいよー」

「なんだかよくわからないが覚えておこう」


 ガルルッと獣のような怒りを見せる薫子を連れ部屋に備え付けられた露天風

呂へと向かう。

 姫の頭の中は温泉でいっぱいでそんな薫子の様子にはあまり気づいていなか

った。


「姫ちゃんってそんなに温泉好きだったの?」


 先ほどからの姫を見てふと疑問に思い薫子は尋ねる。姫が温泉好きだと聞い

た事はなかったが、普段とは違った興味の持ちようにそう思い至ったのだ。


「俺は温泉に入った事がないんだ。何か作法とかあるなら教えてくれると助か

 る」


 これを聞いた薫子は何かを思いついたか、目をキュピーンと光らせる。


「もちろんあるわよぉ。たっぷり教えてあげるわ」


 この宿の露天風呂は外からは見えない工夫された造りになっている。それで

も尚、景観を損ねないところが人気の秘訣なのだ。


「姫ちゃん、まずはここでかけ湯というのをするのよ」

「それは聞いた事があるぞ!これがかけ湯というものか。それでこれはどうや

 るんだ?」


 饒舌な姫に少し圧倒されながらも説明を続ける。


「温泉は普通のお湯とは違うらしいの。だからその刺激に体を慣らす必要があ

 るのよ。はい、姫ちゃんそこに立って。わたしが掛けてあげるわ」

「ありがとう。ああ、これは確かに普通のお湯とは違うな」


 薫子にお湯をゆっくり掛けられると姫は全身を見回して確かめる。ピリッと

した刺激とここの温泉特有の香りが姫の鼻孔をくすぐる。


「次に少しだけ入浴してから体を洗いましょ。ここで重要な事は仲の良い同

 士が温泉に一緒に入ったら洗いっこするのよ」

「ほほー。それが噂の裸の付き合いというやつか」


 温泉で少しテンションが上がり警戒心の薄れた姫を口車に乗せていく。

 本当の事の中に嘘を織り交ぜる詐欺師みたいな手腕である。


「そろそろあっちの洗い場へ行きましょう」


 入浴して間もなくそう言われてしまい姫は名残惜しげについて行った。


「後でゆっくり入れるからそんな顔しないで」

「本当か!?よかったー」


 温泉にかける姫の思いはどうやら相当なもののようだ。


「ここに座ってね。わたしが姫ちゃんを洗ってあげる」

「すまないな。よろしく頼む」


 姫のストレートの髪にお湯をかける。サラサラの髪が湯を吸い姫の体に張り

つくのを見て薫子はついに限界に達した。

 そして、目をつぶっている姫にキスをする。


「姫ちゃ、チュッ」


 驚いて身を引き目を開ける姫。


「人が目をつぶっているスキに何をするんだ……。」

「いーじゃんいーじゃん!姫おねーちゃんの唇おいしんだもん!」


 巫女の力を解放し、性格がまた変化している。


「ほらほら、まだ全然洗えてないんだから大人しくしててね」


 まるで大人ぶった幼い子に窘められるかのような事を言われると、姫も大人

しくせざるを得なく薫子の言われるがままになった。


「うんしょうんしょ」

「何をしているんだ薫子」


 一所懸命体を洗ってくれている薫子に姫はこれは一体どうなんだ?と思いさ

すがに声をかけた。


「温泉ではね、こうやって体を使って洗ったげるんだよ。どう?姫おねーちゃ

 ん気持ちいい?」

「あ、あぁ。気持ちいいのだが、何とも言えないいけない気分になるな」


 薫子は自分の体をこすりつけて姫の体を洗っていた。それが本来の体を洗う

という行為とは別にして。


「姫おねーちゃんの胸いいなぁ」

「こらっ!どさくさに紛れて揉むんじゃない」


 その幼い口調とは裏腹にいやらしい手つきで姫の胸を優しくまさぐる。


「手が埋まる程柔らかいのに張りとツヤまであってこんなのっておかしいよ!

 乳首と乳輪もなんでこんなにキレイなの!好きっ!」

「わかったからその口調と合わないいやらしい手つきをどうにかしろ。もう自

 分で洗うからな!」


 好き放題に胸をいじられた姫は少し顔を紅潮させ自分で体を洗い始めた。

 そんな姫の耳元で薫子は囁いた。


「やり過ぎちゃった。テヘッ!姫おねーちゃんの体最高だったよぉ」

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