風が凪ぎ余人の目に触れずとも静かに波打つ瑠璃色の美花が咲く風景よ永遠に


 荒廃した地球を捨てて、人類は月のコロニーへ移住してしまった未来。瓦礫の山と砂漠の海となった地球には、しかし、いまだ取り残された人々が生活していた。

 作物は育たず、飲み水に苦労し、謎の死病が蔓延する末期の地球。彼らは、科学を失い、原始的な文明に帰し、神に祈りを捧げて生活していた。

 そんな地球を主な舞台とした物語。全5章からなる長編を複数の主人公たちの視点から語らせる壮大な抒情詩である。

 父に裏切られた半陰陽の少年。月のコロニーから追放された科学者。村から疎まれつつ薬草を育てる少女。

 彼らを中心に、荒廃した地球と、管理社会である月を舞台に、人と人との繋がりとは何であるのか?を、青く美しい一抹の花をキーワードに丁寧に紡いでゆく物語。

 時としてすれ違い、時として運命に導かれ、出会い、別れ、そして惹かれ合って行く人々。回を追うごと、彼らの気持ちに強く同感し、美しい文章に誘われ、気づくといつしか、この荒廃した地球が、いや荒廃した地球であったとしても、愛する人々が暮らすのであれば、そこは得難い自分たちの故郷であると気づかされる。


 とにかく小説としての完成度がすごい。
 魅力的なキャラクターと、練り込まれたプロット。ちりばめられた伏線と、胸を打つ台詞、そして宝石のような文章。

 空を巡る星の中には、惑うように時として逆行するものもある。が、彼らはわれわれと同じく、長大な円を描いて太陽の周りを巡るひとつの家族なのである。

 最初、しずかに語り始められる物語は、やがて満天の星空から突き刺さるように落ちてくる流星となってあなたの心を撃ち抜き、何度も何度も感動の涙を流させるだろう。

 本作は小説としての完成度も高い。読めば何度も泣ける。だが、それ以上に、『こんな物語を読みたい』と、そう思う人が、今この世界にはたくさんいるのではないだろうか?


 荒廃した地球がいつか風に揺れるルリヨモギギクで満たされる、そんな美しい風景が、いまのぼくにははっきりと見える。


 ──風が凪ぎ、余人の目に触れずとも、静かに波打つ瑠璃色の美花が咲く風景よ、永遠に。



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