地球と月の間で結ばれる絆と、そこに咲くための希望の種子の物語。

 荒廃した地球と、人類の移住が行われた月の間で、結ばれる絆と希望の群像劇。
 話が始まるのは、退廃した地球の男女の子供からだ。神代の名を冠した二人の子供は、地球に残された人々にとって、まさしく神のような役割を果たしていた。そう、この砂だらけの地球で、二人の子供は人々の、希望だった。しかし二人の母親は亡くなり、父親は月へ移住してしまっていた。男の子は父を恨んでいた。そして二人の子供の母親が亡くなる原因となった病が、地球の人々を蝕んでいった。その病に薬は存在しなかった。
 物語は月に移される。月に移住した人々は地球のことを、罪人の流刑地として認識していた。そんな中、若き植物学者の青年と、二人の子供の父親が出会う。そして地球の流行病の薬となる花が見つかる。二人の子供の父親は、流刑になることで、その花の種子を地球に持ち込もうとしていたのだ。これに協力した青年とその恋人は、それを見送る。それは月から託された希望の種子だった。
 しかし青年は、このことで罪に問われることとなる。そして恋人と悲しい別れを迎え地球に降り立つのだが……。
 壮大なスケールで絶望的な病と人間を戦わせながら、ちゃんと希望が残るように組まれていることが分かる。群像劇であるため、地球の過酷さを見せられると、判官贔屓したくなるし、月のお偉いさんは敵に見える。しかしそう言った単純な二項対立ではなく、月側にも地球のために動く人がいて、そちらの視点に立てば、月側にも声援を送りたくなる。そして、視点となるキャラクターたちが必死になって残そうとする希望を見届けたくなる。
 
 希望の種子が、地球で花を咲かせ、人々に届きますように――。

 心をわしづかみにされる作品。
 壮大ながら、分かりにくさはゼロで、むしろ読みやすい。
  
 是非、ご一読ください!

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