異世界アデショナルタイム

北乃ガラナ

魔王を倒した後の物語

アディショナルタイムは5分間

 魔王の間に微妙な空気がながれていた。


 異世界の長い冒険の果て。魔王を倒した勇者の俺は、共に旅をしてきたパーティメンバーの姫騎士アントワーヌに告白をした。


「私は騎士である前にライトール王国の姫なのだ。こころから感謝しているが……隣国の王子という許嫁がいるのだ。……すまない」


「あ……そうなんだ、はは……」

 

 マジかよ! 許嫁? 初耳なんですけど! ……おもわせぶりな態度で接しやがって!


 ……まぁ、いい。パーティにはロリな魔女っ娘レフィエがいる。レフィエは俺に惚れているにちがいない。なんども命を救ったのだから。きっと大人の俺に憧れを――


「って、オィイイ! なんでキスしてんの! 賢者(おとこ)となんでキスしちゃってんのォ!!」


 やってくれたのう……。賢者(おとこ

 魔王攻略に使える奴だと連れてはきたが。まさか俺の魔女っ娘を攻略していたとは(うまくない)


「よくやってくれました。勇者タカユキ」


 愕然がくぜんとしていると。天から注ぐ光につつまれ降臨したのは女神フロラン。俺をこの異世界に転生させ、冒険を陰に陽にサポートしてくれた存在だ。そうだ、まだフロランがいる。あるいみでヒロイン大本命。


「フロラン! 魔王を倒したよ!」


「ありがとうございますでは、やくそくどおり、もとの世界『地球』にもどしますね」


「!? あれ……、他にいうこと、ないの?」


 『貴方のことが実は……』とか『貴方の側に居るために女神の地位を捨ててきちゃった……』とか……。いいんだよ! さあ俺の胸に飛び込んでおいで!


「この帰還ゲートに飛び込んでください。さようならタカユキ」


 ……最悪のエンディングを迎えようとしていた。いままでの冒険の日々がモノトーンでくすむ。ヒロインと結ばれない異世界なんてクソだろ! 詐欺だろ! 無価値だろ! なんの為に異世界してたと思ってんだ!


 そう、憤慨していると――


「クッ……よくぞわらわを倒した。人間の勇者よ……」

「へ? キミ、誰?」


 紅眼を潤ませた異様に美しい少女がいた。嫋やかなる黒髪は腰まであり、白肌を際立たせる黒エナメル衣装を纏っている。


「この姿では、わからぬのも無理はない。余は魔王ドヴァリエール。もはや魔力が尽き、魔王衣を維持することも叶わぬ。……不様なことよ」


 めっちゃ可愛いじゃん魔王! 本体は女の娘だったのか!

 キター! 異世界ラストチャンス! ここで起こせ奇跡!


「お、オレのことどう思う? 正直に?」

「ふ、強い男じゃ……な。だが……其方ほどの男に敗れたのならば悔いはない。さぁ……殺すがよい」


「……そうじゃなくて。アリかナシか」

「アリカナシ?」首をかしげる魔王っ娘。


「つまり。パートナーとして俺がどうか? という意味だ」

「……余は敗れたのだ、敗者に選択肢はない。それが魔族の掟。嬲るなり喰うなり……好きにするがよい」


 魔族の掟最高ォ! よし、いける! それならば……


「じゃあ、俺の嫁――」

「それはムリ」



 失意の俺は、帰還ゲートの光に包まれた。

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